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対象スレッド 件名: イルミネート
名前: ネームレス
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イルミネート
日時: 2013/12/24 23:50
名前: ネームレス

 強くなると決めたんだ。
 母が死んだあの日に。
 私は、どんな脅威も“ナギ”倒すと。
「ナギー。パーティーに行きますわよー」
「マリア。パーティーならすでに来ている」
「ここ屋敷ですわよ」
「マリアの誕生日パーティーだ。さあ、者共! 準備を」
「ナギ。仮にも三千院家次期当主としての自覚を持ってください」
「ふん。だったら現当主のジジイが行けばいいのだ」
「ナギ……あまり困らせないでください」
 マリアは血の繋がりは無くとも、私にとっては十分に家族のようなものだ。
 だから、そういう風に困られると、私も良心が痛む。
「ナギがパーティーが嫌いなのはわかります。パーティーが嫌だからでは無く、本気で私を祝おうとしていることもわかります。だから、挨拶周りするだけでいいので、どうか行ってくれませんか?」
「……わかった。行くだけだ」
「ありがとうございます。ナギ」
 申し訳なさそうに言うマリア。
 今日はクリスマスパーティーをどこかの大企業の社長が企画したらしく、私は三千院家の娘という事で招待された。
 だが、パーティーというのは口実に過ぎない。
 あのパーティーはナ◯トと九◯の綱引きみたいなものだ。いや、実際の内容は余りにも低俗で醜悪としか言えないものだが。
 本心を分厚い仮面で隠し、何とか相手を自分側に引き込もうとする、富豪同士の格付けだ。相手の権力を自分の権力へと変えるための綱引き。
 そして、タチが悪いのが引き込めなくとも繋がろうとしてくることだ。特に、三千院家みたいに権力も財力も、そんじょそこらの富豪とは比べ物にならないレベルだと、汚い大人はあの手この手で繋がりを求めてくる。
 例え相手が子どもでも、ヘラヘラと笑いながら媚を売る。
 幼い頃より親がいなく、ジジイの代わりにパーティーに参加してきた私にはわかる。
 騙して手玉に取ろうとする。我が子に近付くように命ずる。とにかく興味を引こうとひたすら話す。
 そんな経験を積んでいたら、私の世界は常に灰色だった。
 色づく物など何もなく、全てが灰色。
 それでも、私は強くなければならない。
 強く、強く、強く。
 “特別”で無くてはならない。

『過去でも未来でも!! 僕が君を守るから…!!』

 そう言った男が昔にいた気がする。
 だが、その男は突然神隠しに会ったかのように消えてしまった。
 もう頼れない。
 自分を守ってくれるのは、自分だけだから。
 私は、強くならなければ。

 ______

「マリア。帰るぞ」
「ナギ」
「じょ、ジョークだジョーク。なに、この三千院ナギにかかれば挨拶回りぐらい余裕なのだ!」
「それじゃあ頼みますよ。これ名簿です」
 私はパーティー参加者の家が書かれた名簿を確認する。
 およそ十ページに渡り、一枚に十個ほど家のデータが簡単にかかれていた。
 つまり、参加者は百人をゆうに超え、最低でも百人には挨拶しなければならない。
 まあ、それなりか。もっと大きいパーティーも経験したことはあるしな。
「だが、私はいちいち覚えられないぞ」
「大丈夫ですよ。私も側にいますから、その都度確認しますので」
「ああ、頼んだ」
 同じ応答を繰り返すだけの作業だとこの時は高を括っていた。
 だが、問題は起こるものだ。
「……逸れた」
 マリアがいなくなってしまった。
 さて、どうしたものか。このタイミングで話しかけられても私にはどうすることも
「こんばんはナギお嬢様」
「っ!!」
 突然の挨拶に心臓が跳ねる。
 相手の顔には見覚えがこれっぽっちも無い。
「この間のパーティーで少しお話しましたが、覚えてますでしょうか」
「……あ、じゃなくて……ええ。お久しぶりです」
 全く記憶に無いし、話と言っても多分基本的な受け答えのみだろう。
 それを“少しお話しましたが”と改竄するあたり、汚いと思わずにはいられない。
 この場はすぐに立ち去るとするか。
「では、私はこれで。まだ挨拶周りがありますので」
「幼くして三千院家次期当主としての自覚がお有りであられるとは素晴らしい。ですが、その若さでは苦しい事もあるのでは? どうでしょう。我が◯◯薬品を傘下に収めてみては? 私も少なからずお力添えを……」
 ああ、始まった。
 “三千院家”と繋がろうと、“親切”という言葉の裏に“本心”を隠して喋ってくる。
 そもそも幼いとはなんだ。私は飛び級していて、そんじょそこらのガキとは出来が違うのだ。
 そうやすやすと引き込めると思われてるのであれば、酷い勘違いだ。
 胸糞悪い。
「いえ。私の家の者たちは優秀です故。それに、まだジジ……帝お爺様もいますので、私の負担など」
「ですが、帝様も相当なお年のはず。将来を考えて私たちと繋がるのも一つの手かと」
「すいません。私の一存では決められません。ではこれで」
 化けの皮が剥がれつつあるのか、最後の方はほぼ棒読みだった。
 だが、これでこの場から離れられる。
 そう思い、踵を返そうと
「ああ、ならウチの子と少し遊んでいただけませんか。ナギお嬢様は飛び級してらっしゃるのでしょう? こういう機会に、まあ息抜きとして同年代と遊ぶのはいいことでは無いでしょうか」
 はっきりと「余計なお世話だ!」と出かかったが、ギリギリのところで抑え込む。……危なかった。
「あの、この後も挨拶周りが」
「お時間は取らせませんので」
 子どもを使ってお近付きになろうとしてるのがバレバレだ。
「ですが」
「おーい。俊太ー」
「あ、パパ!」
 チィッ!
「ほら。ナギちゃんだよ。一緒に遊んでおいで」
「はーい。行こう、ナギちゃん」
「こ、こら引っ張るな!」
 何がお時間は取らせませんだ。
 その後は俊太という子どもの友達らしき奴らと延々とくだらない話しをさせられた。
 そして、黒い感情が腹の底に湧き上がってくるのも感じた。
 どうしてこいつらはヘラヘラとしていられる?
 どうして親に利用されているとも気づかない?
 本当にこんな何も考えてなさそうな奴らが同年代?
 私の友達は、咲夜や伊澄は飛び級をした。ワタルの奴も、かなり無理な飛び級ではあったが、最後は咲夜に譲ってもらい白皇学園に通った。みんな勉強会して、同年代の奴らと比べれば、あのワタルでさえかなり上位に入るだろう。
 だが、こいつらは……。
「中学の数学難しいよねー」
「英語わからなーい」
「理解の実験面白いよね」
 低脳だとしか思えない。
 レールがすでに敷かれているからと、自分からは何もしようとしない、養殖されている豚だ。
 こんな、こんな奴らと、“特別”な私を一緒に……
「ナギちゃんは苦手な教科とかある?」
「……いい」
「ナギちゃん?」
「もういい!」
 空気が凍った。
 私が叫んだと同時に、視線が私とこいつらへと集中した。
「何があったんだ俊太!」
「あ、パパ」
 先ほどの男だ。
 まあ、これは起こられてもしょうがない。余りにも内容が理不尽だった。
 大人の余裕を持って対応をしよう。
「俊太! 今すぐ謝りなさい!」
「え?」
 ……は?
「相手は三千院家の御令嬢だぞ! 怒らせるような事をするんじゃない!」
「で、でも僕」
「言い訳はいい!」
「ご、ごめんなさい」
「この度はうちの子が……」
 もはや声など耳に入ってなどいなかった。
 こいつは今、自分の子に何て言った?
 謝れと言ったのか?
 碌に事情も聞かず、実の我が子に謝れと?
 怒りが湧いた。
 親というのは、どんな時だって子どもの側にいてやるものなのでは無いのか?
 私の母は、何も出来ない親だった。親らしい事をされた覚えなど無かった。
 それでも、私の母はいつも私に寄り添ってくれた。笑って、笑顔で、私を見てくれた。
 私だけじゃ無い。母の周りは皆笑顔だった。
 そして、私はそんな母が大好きだった。親らしい事は何も出来なかったけど、母といた時間は掛け替えのない物だったと、母とあんな別れ方をして、本気で後悔するぐらいに、私は母が大好きだった。
 それなのに、この親はどうだ。
 自分の子ではなく、“三千院家”の側についたのだ。
 速攻で、一瞬で、我が子を怒ったのだ。
 世界は灰色だ。
 母がいた頃の、あの鮮やかだった風景はもう見られないのか。
 全てが輝いていたあの時には、もう戻れないのか。
「ナギ?」
「……マリアか」
「どうかしましたか?」
「……ああ」
 そうか。マリアは見ていなかったのか。
 だが、あまり心配もさせたくない。
 だから、いつものように振舞おう。
「こんなタバコ臭い所これ以上うられるか!!」
 私は色を失った世界から逃げるように、会場を出た。

 ______

 ……ここはどこだ。
 公園か。
 ……はぁ。折角のクリスマス・イヴだと言うのに、最悪な気分だ。
「へっくしゅ」
 うぅ、寒い。
 しまった。会場から何も持たずに出てしまった。
 財布も無い。
 くっ、目の前に暖かい飲み物があるというのに! 自動販売機のくせに生意気だ!
「ね〜ね〜君、可愛いね〜」
「え? へ?」
 なんだ。この変な奴らは。
 これはまさか……俗にいうナンパ!?
「せっかくのクリスマス・イヴに一人なんて、俺たちとどっか楽しい所に」
 チャラい男に絡まれて、混乱した。
 断っても無理矢理連れていかれるのでは?
 それはマズイ。ダメだ。どうにかして断らないと
「人の獲物に手を出すなぁ!!」
 そこの、いかにも貧乏そうで貧相な生まれをしたであろう青年が、男二人を撃退してくれた。
 突然の事過ぎて何が何だかさっぱりだけど、多分この男は私を助けてくれたのだろう。
 なら、三千院家の者として、礼儀は尽くさなければ。
「あ…ありがとう…なんか知らんが…助かったよ…」
 その男は親切だった。
 コートを貸してくれたりもしてくれた。自分だって寒いだろうに。
 さらに、事もあろうか告白してきたのだ!
 その男の目は本気で、ああ、本当に私の事が、なんて柄にもなく思ってしまった。
 強くて…優しくて…カッコいい…。
 それが私の、その男への第一印象だった。
 ……ん? コートのポケットになにか。
 ? 何だこれ?
「ハヤテ君へ」…ハヤテ…これがあいつの名前なのかな?
 そう思うと少しイタズラ心も湧く。
 次会ったら名前で呼んでやろう。そしたらきっと驚くぞ、ふふ。
 そんなことを考えていたら、
 “そいつら”の接近に気付けなかった。

 ______

「ぐっ!! なにをする!! 離せ!!」
 変な男2人組に私は誘拐される。
 くっ、本当に今夜は最悪のクリスマス・イヴだ!
 だが、怯えるな。
 決めたはずだ。強くあろうと。
 絶対に、屈したりはしない。
 強く、強く、強く!
「空気が汚れるから、呼吸をやめてくれないか?」
 強くなければいけない。
 いずれは周りは敵だらけだから。私は強くなければならない。
 私は何度も罵声を浴びせた。だが、誘拐犯たちの沸点は意外と低かった。
 怒らしてしまった。
 今、私の手は封じられている。このままでは危ない……!
 恐怖がじわじわと心を侵食する。
 強く、強く、強く。
 何度念じても、徐々に怖いと思ってしまう。
「時速80キロ以上でぶっとばす車に、呼べば来る奴がいると思うのか!?」
 そんなの物理的にムリだ。
 でも、私は強くなければ……

『過去でも未来でも!! 僕が君を守るから…!!』

 もし、もし本当に守ってくれるなら。
 もし未来でも私を守ってくれるなら。
 私は、頼ってもいいのだろうか?
「いるさ!! 命がけで私をさらうと誓った。だから呼べば来るさ!!」
 あの男と公園で会った男は無関係だ。会った場所も違うければ、外見からの年齢も近すぎる。過ぎ去った年月を考えれば余りにも不自然。
 でも、もしかしたら。
 もしかしたら、公園で会った男は、あの男が呼んでくれたのではないか、とあり得ない事を考えてしまう。
 それでも、助けてくれるなら……。

 ___ハヤテ!!

「おい、この悪党ども!! おとなしくその子をかえ」
 ハヤテは引かれた。
「おい…お前達!! よくも…!! よくもハヤテを!!」
 だが、そんな私の心配をよそに、ハヤテは車のフロントに血まみれになりながら着地して、私を救ってくれた。
 その後は大変だった。
 警察が駆け付け、ハヤテが倒れ、マリアが現れて。
 とんだクリスマス・イヴだ。
 だけど、最初のような最悪な気分では無かった。
「新しい仕事でも…見つけて」
 ハヤテが残した言葉だ。
 新しい……仕事。
 ……こいつにしよう。
「この男を…私の新しい執事にする」
 予感があった。
 ハヤテはきっと、私にとって大切な存在になる。
 私とマリア、そして伊澄たち。その中にこの男を加える。きっと楽しい日々になるだろう。
 ……あぁ。不思議な気分だ。
 今までと同じ風景のはずなのに、とても鮮やかだ。まるで、色が付いたかのように。
 この男と歩もう。
 例えこの先、どんな事が起ころうとも、ハヤテと一緒なら歩んでいける。
 何故なら、私の見る風景はまるでイルミネートされたかのように、明るく照らされているのだから。

 END

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 と、いうことでクリスマス・イヴと言えばハヤナギの出会いということでこういう謎な妄想を書いてみたりしました。
 どうだったでしょう? まあ、山なし落ちなしみたいな感じですが(ーー;)
 それでは最後に皆さん。メリークリスマス! これからもハヤテをよろしく!