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対象スレッド 件名: Re: キミとミキ
名前: ネームレス
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Re: キミとミキ
日時: 2013/10/09 19:06
名前: ネームレス

ストライク バッターアウト

しゅ、週末だ。
まさか、本当にデートする事になるとわ……。

「僕、もう死んでいいかも……」

「ふむ、それは困るな」

「っ!?」

あ、あれ〜? 幻聴かな〜? たしか待ち合わせ30分前に来たはずなのに花菱先輩の声が聞こえる……。

「せっかくの休日が無駄になってしまう」

「は、花菱先輩!?」

ほ、本物!?

「な、何で……。まだ30分前……」

「何を言っている。待ち合わせ時間ちょうどではないか」

そう言われて時計を確認する。ほ、本当だ。

「済まないな。貴重な練習時間を削らせてしまって」

「は、ははは。大丈夫ですよ。野球休むって言っても許可はもらいましたし、せいぜい手足が震えて視界が狭くなり意識が朦朧としてちょっと発作が起きるぐらいですから」

「それを人類は大丈夫とは言わない気がするな。……ほら、行こう」

ああ、本当に夢みたいだ。

○◦○◦○◦

遡ること部休の日。

「美希ー。いるー?」

「ん?どうしたヒナ」

「ちょっと会ってもらいたい生徒がいてね」

「私にか?」

「そうよ。入ってきて」

「こここ、こんにちわ!」

動画研究部部室。会長に連れて来られたのは花菱先輩が入っている部活の部室だった。そこには短いツインテールの活発そうな先輩と、僕を現在の窮地に陥れた朝風先輩がいました。

「この生徒、知ってる?」

「ああ、野球部の田中太郎くんだろう? それがどうしてここに?」

名前を呼んでもらえた!! フルネームだけど!!

「ちょっと田中くんの悩み事を聞いてね、解決のために美希の協力が必要なのよ」

「は? 私がか?」

「うん。だから、悪いんだけど週末に二人で出かけてくれる?」

「ま、待て! 何故私がそんなことを!」

きっとこの時の僕は死んだ魚の目をしていただろう。

「普段から生徒会の仕事ほっぽり出して遊んでるんだから、このぐらいしてあげてもいいでしょ?」

「い、いやだが」

「生徒の悩みを解決するのも生徒会の仕事よ」

「……いいだろう。ただし条件だヒナ」

「……やっぱりそうなるのね」

「田中太郎くんと出かける代わりに、今度ヒナにはコスプレをしてもらう! 勿論写真込みだ!」

何それ! 超見たい!

「え!?」

「ふふふ、どうしたヒナ。まさか、生徒会長とあろう者が、我が身可愛さに生徒を見捨てるつもりでは無いだろうな」

「……ふ、ふざけないで! いいわ、やってやろうじゃない!」

僕はもしかして、とても大変な事をしてしまったのだろうか。

「メイド服は基本だよね〜」

「うむ。我が家には巫女服もあるな。それも持ってこよう」

「あ、私の家にはアニメのコスプレ衣装いっぱいあるよ!」

「ほほう……それは是非とも見たいものだ」

そして、後ろでは何やらとても怪しげな会議が行われていた。

○◦○◦○◦

そんなこんなで現在に至る。

「で、君の悩みとは何なんだ?」

「え!? あ、え〜と……ひ、秘密です」

「……まあいい。私と出かければ解決するんだな?」

「あ、はい」

「なら行こう」

「え? あ、ちょっと待ってください花菱先輩!」

花菱先輩はスタスタと歩いて、僕はそれを後ろから追いかける。
まさか、こんな事になるなんて。
この時間が、少しでも長く続きますように。

○◦○◦○◦

「て、いきなりなんつー買い物してるんですかー!!」

「ん? 別に服やアクセサリー類を買っただけではないか」

たしかに、言葉の上では合っている。だが、その値段が凄かった。案の定荷物持ちなのだが、部休とは別の意味で手足が震えていた。
白皇に通う以上、うちも一般家庭からしたらかなりの金持ちではあるが、やはり政治家の娘は格が違った。

「普段からこういう風に買ってるんですか?」

「いや、無駄使いはたまにだな」

「む、無駄使い……」

格どころかスケールも違った。
きっとこの買った物の中には殆ど日の目を見ずに終わるのもあるのだと思うと、少し悲しくなった。

「さて、次は何処に行く?」

「あ、はい。え〜と」

これ以上無駄使いされても僕の心臓に悪い。だったら長時間いれて飽きない所。だったら……

「遊園地はどうでしょう!」

「まあ、今回は君のためのお出かけだからな。いいだろう」

「では行きましょう」

そう言って、僕はなけなしの勇気を振り絞って、手を繋ごうと差し出す。

「……袋を差し出されてもな」

MISS! 僕の両手は荷物で埋まっていた!

「あ、えーと」

「ふう、まず肩の力を抜け。さあ、行くぞ」

「あ、また! ちょっと待ってくださいよー!」

は、恥ずかしい……。荷物を差し出すとか……。
でも、やっぱり僕なんかと出掛けてくれるのは、嬉しい。
でも置いてくのはやめて!!

○◦○◦○◦

そして、僕はこの日、とても楽しい時間を過ごした。お化け屋敷で僕を驚かしにきたり、昼食を買ってきてくれたと思ったら、実は自分の分だけだったり、いろいろイタズラは仕掛けられたけど、とても楽しい時間だった。
そして、その時間は僕にとっては麻薬のようなものだった。
野球が好きだけど、野球よりも熱中してしまいそうで、怖くなった。
だから、僕はこの日、告白をする事に決めた。
まず100パーセントふられる。でも、そうでもしなきゃ自分の気持ちが諦められないから。
僕は、その背中に声をかけた。

「花菱先輩」

「ん? どうしたんだい」

「好きです」

きっと、僕は明日から勘違い野郎の汚名を背負うことになる。
だって、身の程も知らずに、花菱先輩に告白してるのだから。しかも、花菱先輩からしたらたった数時間の付き合いなのだ。
だから、ここで酷い言葉をかけられても……

「済まない」

「……え?」

だが、「済まない」と言われるのは予想外だった。
ここは笑われてもしょうがないのに。花菱先輩は、とても辛そうな顔をしていた。
たった数時間の付き合いでしかない、僕に。

「君が悩んでいたのは、そういうことだったのか」

「あ、その」

「君の気持ちには、答える事は出来ない」

「……で、ですよねー! ぼ、僕も何を勘違いしてたんだろ! ああー、恥ずかしい! すいません、こんなことにわざわざ付き合わせちゃって……」

「違うんだ!!」

それは、何と言えばいいのだろう。
怒り? 悲しみ? 悔しさ?
いったい、彼女の言葉には何があるんだろう。

「君に、失恋をさせてしまって、済まない」

「…………え?」

「私には、好きな人がいるんだ」

ガツンと、頭を殴られたような気分だった。
でも、花菱先輩の言いたいことは、これじゃないと思った。

「私は、自分の恋愛に逃げてるんだ。絶対叶わない、そうわかっているから、行動出来ないでいるんだ。諦めようとせず、ずっと今の関係を繋げているんだ。君みたいに動こうとせずに、楽をしてるんだ。ずっと見上げてるだけなのに、なのに自分から歩み寄ってくれた君に、こんな答えしか返せなくて、本当に済まない」

……何と無く、わかった。
きっと、この人は好きな人の事を思い続けてきたのだ。
だからこそ、失恋から逃げている自分が、僕に失恋させる事に罪悪感を……。

「……ふざけないでください」

「……え?」

でも、僕は許せない。

「ふざけないでください! そんな気持ちでふらないでください! 告白する方は、ふられる覚悟で告白してるんです! 自分の思いを! 相手との関係をはっきりさせるために告白するんです!! なのに、そんな風に断られたら、僕は諦めきれないじゃないですか。希望を持っちゃうじゃないですか。だから、はっきりふってください。カッコ良く、コテンパンにしてください」

もう少し頑張れば。もう少し押せば。もう少し長く付き合えば。花菱先輩の言葉は、そういう誘惑を植え付けるのだ。
悪意が無いのはわかってる。罪悪感を持ってくれてることもわかってる。
だから、はっきりとふってほしかった。
自分にために、花菱先輩のために。

「……ふ、ふはははは!」

「……は?」

え? きゅ、急に笑い出したぞ?

「き、君はマゾなのか? はっきりふってくれとは……普通頼まんだろう」

「え? あ、その」

「まあ、確かに、好きでもないのに期待を持たせるのは間違っているな」

そう言うと、花菱先輩は何処かスッキリした笑顔で、言った。

「私には好きな人がいる。だから君とは付き合えない」

「……はい」

……きついな、これ。
あーあ、初恋、失恋で終わっちゃったなー。……ほんとに。

「……だから、これは君限定だ」

「……え?」

「先ほど言った事だよ。あれは、君限定だ」

先ほどというのは、僕が怒る前の事だろう。
でも、それは。

「……違います」

違う。

「……僕の恋は、叶いました」

「……何を言っているんだ?」

「僕の恋は、始まって、そして好きな人によって、終わりました」

「だから、世間一般では、それが叶ってないと言うのだろう?」

「じゃあ、僕は特殊なケースですね」

僕の思いは報われた。

「僕は、あなたと同じくらい、野球が好きです。だけど、あなたに恋してから集中出来ず、内心青ざめる勢いでした。そこで、僕は思い切って告白したんです。最初からふられると思って。でも、違ったんです。花菱先輩はたった数時間の付き合いの僕に謝ってくれた。嬉しかったんです、気にかけてくれたことが。そしてその後も、ちゃんとふってくれました。だから、僕は傷付かず、あなたを諦められる。あなたの優しさが、僕を傷付けずに僕の恋を終わらせたんです。だから、その、花菱先輩に恋できて、僕は本当に良かったと思ってます」

「……君は」

泣きそうだったのは、もう遠い昔のようだ。
花菱先輩の優しさが、嬉しかった。
好きな人に、優しくされたのだ。それで十分だった。
だから、

「真に勝手ながら、あなたに恋をしたこの一ヶ月! 今まで、ありがとうございました!!」

これが僕の、精一杯。

「……そうか」

「はい。じゃあ、僕はこれで」

「まあ待て」

…………はい?

「何をカッコ良く終わらせようとしてるんだ? 普通の終わり方を、面白さを常日頃から目指している動画研究部の一員たる私が許すとでも?」

「え? 何この急展開」

「実はな、私は野球に興味が無い」

「ええぇ!?」

凄いショックだ。

「ルールも知らんしやってて何が面白いのかもわからん。ボール投げて打つだけの運動に何の意義があるのか私には全く理解できない」

なに!? 何なのこの罰ゲーム!? 俺のライフはもう0だよ!?


「だが、一生懸命な君を見ていて気が変わった。ほーんのちょっとだけだがな」

「……え?」

「田中太郎。私に、君のプレイで野球に興味を持たせてみろ。私が野球を好きになったら……まあ、出来る範囲で願いを叶えてやるのも吝かではない」

脳が、少しずつその意味を理解していく。

「…………え、えええええええええ!! ほ、本当ですか!?」

「ああ、本当だ」

「じゃあ、今日みたいにデートするのも!?」

「ああ、やってやろう」

「やったああああああああああああああ!!!」

神様! ありがとう!!

「だが、今まで全く野球に触れなかった私に興味を持たせることが出来るかな?」

「やってやりますよ!!」

「君は本当に野球が好きなんだな」

「はい!!」

こうして、僕の初恋は幕を閉じた。少しほろ苦い記憶だけど、僕はきっといつか、この約束を叶えてみせると、誓った。

○◦○◦○◦

「……ほう」

「美希ー。何見てるのー」

「いや、ちょっとな。約束の確認だよ」

「ふーん。……いいけど、生徒会の仕事も」

「おっと、用事を思い出した! さらばだヒナ!」

「あ! もう、相変わらずなんだから」













『ーー白皇学院が夏の甲子園全試合ノーヒットノーランを達成するという歴史的快挙を達成しました。この伝説の立役者、田中太郎選手はインタビューには『約束のおかげです』と答えており、今後の彼の活躍に注目が集まります。では、次のニュースで−−』

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小説はこれで終了です。
理沙がどうなったのか、ヒナギクのコスプレなど、やってないこともありますがご了承ください(汗
それでは、ここまで読んでいただいてありがとうございました!