キミとミキ |
- 日時: 2013/10/07 17:46
- 名前: ネームレス
- 一日一話投稿で行きます。三話構成です。
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ストライク1
「はぁ……はぁ……はぁ……」
息を整える。ボールを握る。足で土の感じを確かめる。
「ほら! ラスイチ!」
「はい!」
練習でも全力で、自分の限界を試すように、足を振り上げ、土を踏み、
「っ!」
投げる!
「シッ!」
バッターが鋭く息を吐き、バットを振り抜く。 カキーン、と音をたてながら、白球は空へ飛んだ。
「あっ!」
そこで気づいた。 打球の落ちる場所に人がいることに……。
「危ない! 避けて!」
「……む?」
その人は何かを考えていたのか、少し遅れて反応する。
「……え?」
呆然とするオールバックの女子生徒。 ダメだ! 間に合わない!
「のわああああ!?」
女子生徒が咄嗟に回避行動に移った。 予想以上に速い動きに少し驚くが、これで女子生徒が避けてくれれば……。
「ふぐっ!」
『…………』
回避した後にボールがバウンドして額に当たる。あまりにも綺麗に当たるもんだから思考が止まってしま……じゃなくて!
「だ、大丈夫ですか!?」
「うぐぐ……痛い」
「あぁ……早く保健室に」
そこで、言葉は止まった。 女子生徒は痛みに耐えてるためしゃがんでいる。その体勢でこっちを見上げたため、上目遣いになっていた。 真っ赤になった額を両手で抑え、小動物のようにかがまりながら涙目での上目遣い。 不覚にも不謹慎にも、可愛いと思ってしまった。
「……そのような気遣いは無用だ」
「え、でも……」
女子生徒は近くに転がっていたボールを拾いこちらに放る。僕は突然のことで危うく落とすところだったが、キャッチに成功した。
「野球部の期待の新人。ポジションは投手。ストレートは140 km/hという脅威の球速に変化球も三つほど使える逸材。そんな者が私に気を使うな。幸い、バウンドしたからダメージはそこまで無い」
「は、はぁ……。て、あれ? なんで僕の事を」
「生徒会の活動で部活動をリサーチした時に調べた」
「……はぁ」
そう言われたら終わりだが、幾ら何でも詳しすぎな気が……。 ん? 生徒会?
「では私は行く。次からは気を付けろ」
「あ、はい!」
そう言って、女子生徒は去っていた。
「…………はぁ」
「おい。何やってんだ」
「わぁ!? すすす、すいません!」
「いや、いいけどよ……。て、あれ花菱美希か」
「花菱……美希?」
「二年で政治家の娘なんだ。生徒会長とも仲が良く、いろいろ問題も起こしてるから有名だぞ? 知らなかったのか」
「……ええ、まあ」
「ふーん……。ま、ほら! 練習続けるぞ!」
「は、はい!」
それが僕の、白皇学院高等部一年野球部所属、田中太郎と彼女の出会いだった。
○◦○◦○◦
「……はぁ」
「どうしたよ太郎。最近元気無いな」
「べっつに〜」
「野球一筋のお前が珍しい」
こいつはモブEX。僕の親友だ。だが、親友だからこそわかる。こいつに僕の事情、僕が花菱美希先輩に恋をしたことを知れば、絶対からかう。
「ふーん。……女か」
まあ、だいたい予想通りだ。だからこそ僕は頭の中に事前に答えを用意できた。伊達に親友名乗ってない。 残念だったなモブEX!
「べべべべべっつにー!!」
「わかりやすいな、お前」
しまった! 全く口が動かなかった!
「くっ、いつまでもお前が勝ち続けられると思うなよ! 次は勝つ!」
「いや、まず前提が違うから。俺ら争ってないから。……で、誰が好きなんだ?」
ぐっ、こいつは……。
「教えないよ」
「ほぅほぅ、教えないよ、か。いる事は決定だな」
僕のバカー!
「……く、モブのバーカバーカ! 絶対教えないもんねー!」
「誰がモブだ!」
よし、このタイミングを逃してはいけない! 僕は怒ったふりして足早に教室を出た。 行った先はテラスだ。別にここがお気に入りというわけでは無い。何となく来ただけだった。だが、人は少なく静かだったのでそのまま居座る事にした。
「……ふぅ。落ち着く」
こういう静かな場所に来ると、教室がとてもうるさく感じるから不思議だ。普段は何でもないのに。
「……花菱先輩」
……はっ!? 僕はなにを!? あの日から、暇があると花菱美希先輩の事が頭によぎる。モブに言われたとおり、小中学校と大した成績は残せなくとも、野球一筋でやってきた僕には全く経験の無い事に動揺しているのはたしかだ。 で、でも、それじゃあ僕がまるで花菱先輩の事がす、す、……好き、みたいで……
「うわあああああああああああああああああ!!!」
何これ何これ何これ! 体が熱い! ムズムズする!
「ひ、一目惚れとか今時無えよマジで!!」
「ほぅ、何が無いんだ?」
「っ!!!」
ぎゃあああああああああああああああ!!! 誰かに聞かれてたああああああああああ!!! ばっと振り返ると、そこには女性にしては長身で、黒髪を短く揃え、……どこか意地悪そうな雰囲気を持つ女子生徒がいた。 ……どこかで見たことが。……ああ!
「あ、朝風先輩……ですよね?」
「む?よくわかったな」
どうやら当たりのようだ。
「え、ええ。花菱先輩といつも一緒にいるので」
「……“美希と一緒に”、か」
「………………」
全身から変な汗が出る。物凄い地雷を踏んだ感がいなめない。やり直せるなやり直したい。 と、とにかくここは誤魔化さないと!
「こ、この前野球の部活中に間違ってボールをぶつけちゃって、それで花菱先輩の事ははっきり覚えているんでよね。ほ、ほら! 普段気にもしない人と知り合いになると人混みとかで見つけた時目で追っちゃうじゃないですか!」
よし、完璧な言い訳だ!
「一目惚れ、だったかな」
地雷は一つではなかった!
「くくく、ばらされたくなければ私に従うがいい」
何故この人は初対面の人を相手にここまで上から目線でいられるのだろう。 だが、ここで刃向かってもばらされるだけ。従うしか無い……!
「……わかりました。何をすればいいんですか」
「一ヶ月以内に美希に告白してくれ」
「……what?」
「済まない。英語はわからないから日本語に訳してくれ」
「……何ですと?」
「理由はな、実は泉の恥ずかしい動画が我ら動画研究部には大量に保存されてるんだが、私、美希の動画は無くてな。つい先日、そのことで泉を弄っていたら拗ねられてな。機嫌を直してもらうために、手っ取り早く私か美希の恥ずかしい動画でも献上すればいいという考えに至ったのだ」
「……つまり、自分の恥ずかしい動画は嫌だから、僕が花菱さんに告白しているシーンを撮って、代わりにしよう、ということですか?」
「話が早くて助かるな」
「最低だあんたは!!」
先輩とかもう関係無かった。思ったらつい口に出ていた。
「はっはっは、君も告白出来て私も助かる。最高じゃないか! では、頑張りたまえ! 一ヶ月過ぎたらばらすからな」
「ええええええええええええええええええ!!!」
今日僕は、人気の無い場所には、絶対に行かないと決めた。
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