Re-それでも好きだから困る -妄想版- |
- 日時: 2013/09/06 00:44
- 名前: ロッキー・ラックーン
- こんにちは、ロッキー・ラックーンです。
これまた久しぶりの投稿です。
今回はひなゆめ時代の作品を再投稿です。 PCのファイル整理をしていたら出てきまして、気付いたら手直しをしていました。
29巻10話(サブタイ:『それでも好きだから困る』)のヒナの話があまりに不憫だと思って書いたもので、逆にヒナギクルートトゥルーエンドみたいになってしまいました。(ハッピーエンドとは言ってない) 自分の気持ちに向き合い、殴りオチにしないヒナを見守ってあげて頂けたらと思います。
それではどうぞ!
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今日も今日とて、私の想い人、綾崎ハヤテは可愛い女の子の相手で忙しそうだ。 しかも今回のお相手は、聞いた所によるとすごく人気のあるアイドル…。
仲睦まじく抱き合う二人。 この二人から、しいておかしな点を挙げるとすれば、お互いに女の子の格好をしている事くらいか…。
「……」
白皇学院生徒会長――桂ヒナギクはたまに思っている。
ああ…どうして私は…この人の事が好きなんだろう…? ほれた方が負けとはいえ… 夜… 家の庭先で、"女装して"女の子と抱き合っているこの男の子の事を、どうして自分は好きになってしまったんだろう?
しかも…!! なんでそんなに…似合ってんのよ女装が!!!
【 Re-それでも好きだから困る -妄想版- 】
プチッ
ゴッ
"また"やってしまった。 私のゲンコツを受けた頭をさする彼…綾崎ハヤテが何度と無くややこしい状況に陥っている事、その状況を説明するのが壊滅的にヘタクソだという事なんて、今に分かった事ではないはずだ。 彼の助けになりたいと思っているはずなのに、たった一言、少し気に障っただけで癇癪を起こして手が出てしまう。 いつもそう。彼を信じて、最後まで話を聞けば良いだけなのに…。
「で、またハヤテ君を殴っちゃったと…?」
「うん…」
苦い顔で私の話を聞く恋敵兼親友。西沢歩。 私に勉強を教わりに来てたのだったが、話題が共通の想い人である彼の事に移ってからはペンが止まったままだ。
「ハヤテ君もハヤテ君だよね〜。『性的に』って…ヒナさんに殴られに行ってるようなもんじゃないかな?」
「…そうよねっ!歩もそう思うでしょ?」
「うん、まぁ…私なら殴ったりはしないだろうけど…」
「う"っ…」
返す言葉も無い。 きっと彼女なら、彼のあのヘタクソな言い回しに戸惑いながらも、必死に理解しようと会話に努めたに違いない。 言葉よりも先に手が出てしまう自分が恨めしい。
「なんでだろ…」
何気なく呟く「なんで」
なんで彼の元にはあんなに沢山の女の子が寄って来るんだろう。 なんで彼は私の事だけを見てくれないんだろう。 なんで私は好きなのに彼と話す機会をあっさりとフイにしてしまうんだろう。 なんで私はあの人が好きなんだろう。
…そういえば一つ、気になってたことがある。
「ねえ、歩…」
「はい?」
「歩はなんで、ハヤテ君が好きなの?」
「えっ!?」
彼への恋心を共有してしばらく経つが、そんな話をした事はあまり多くない。 親友は驚く。無理もないとは思う。
「ソレって、とうとうヒナさんが私に愛想を尽かしたっていう…」
「ちっ、違うわよ!…言い方が悪かったわね。『歩はハヤテ君のどんなところに恋してるのかな』って…」
「あ、なんだそーゆーことかぁ。でもどうしたの、ヒナさん?いきなり…」
考えてみたら、あまりに他人の心の奥底を覗きたがる質問だ。 急な問いに困惑してる彼女の眼にいささかの侮蔑の色が見えたのは気のせいではないはずだ。 自分のした無粋な行為に恥ずかしくなり、思わず頭をかきむしる。
「あぁ"〜、ゴメン歩!今のナシ!!」
「えっ?」
「歩のハヤテ君だけに持ってる大切な気持ちに、私が土足で入り込む権利なんて無いわ。まして、私が言ってないのに歩に先に言わせるなんてフェアじゃないし…」
あぶないあぶない。 きっと彼女のことだから、快く思わずともしぶしぶ答えてくれたに違いない。 親友とはいえ、恋敵。お互いに入り込まれたくない領域というものも「…っぷ…ハハハハハ!!!」
思考の渦に吸い込まれそうになるのを遮る彼女の大笑い。
「えっ?何!?私何か変な事言った…?」
「ハハハハ!!やっぱりヒナさんだ…アハハ…」
意味が分からない。「やっぱり」って、そりゃ私という人間は何をしても私だけど…。 止まらない大笑いに、少し気分が悪くなる。
「歩!?いったい何?」
「ゴメンゴメン…ふぅ…」
やたら長く感じた大笑いが止まった事で、部屋は静けさを取り戻す。 私は口を開かない。大笑いの理由を彼女から話させようと思ったから。
「ヒナさん…ハヤテ君の普段の顔ってどんな感じかな?」
「どんなって…まあ『そこそこの笑顔』ってところかしら?」
「うん。…じゃあ、ナギちゃんの執事になる前のハヤテ君はどうだったと思う?」
いきなりの質問責め。 まあ時間もたっぷりあるし、かなり気になる話題になりそうだからこれといって文句は無い。大笑いの理由は後回しだ。 ナギの執事になる前…要は歩と同じ学校に通っていた時の事かしら?
「うーん…話の流れからすると、いつもしかめっ面だったとか?」
「ううん。『そこそこの笑顔』だった」
軽くずっこける私。 お笑い芸人なら間髪入れずにツッコむような流れだ。 …まあまあ、ここは私の知らない彼のことが聞けるチャンスかもしれない。 話を聞く姿勢を取り直す。
「じゃあ…ハヤテ君が執事になる前は学校以外で何してたか知ってるかな?」
「えーと…たしかバイトばかりしてたって言ってたわね」
「そう。早朝から登校までと、下校してから深夜まで…『日付けが変わったらラストスパートだ』って言ってた」
「…すごいわね」
改めて、彼の超人ぶりに感心する。 というか、「ガン○ムの生まれ変わり」という当初の噂以上の肉体と精神だと思うけど…。
「ここでヒナさん」
「ん、今度は何かしら?」
改めて間を整える歩に、視線を合わせる。 あまり見た記憶の無い彼女の真顔の瞳に吸い込まれそうになった。
「そんな生活を毎日送ってる人が、いつも『そこそこの笑顔』なんだよ?」
「!!」
まだ、心のどこかでこの親友の事を見くびっていたのかもしれない。 「ただ猪突猛進に、スターを取った●リオのように恋路を突っ走る乙女」だと思っていた。と言っても、これは私では到底出来ない事だから尊敬しているけど。 私は彼の表情の奥底なんて、考えもしなかった。 ただなんとなく、彼の笑顔が見たいなと…私はそれくらいしか考えていなかった。
「歩は、ハヤテ君の笑顔が…」
「好きだよ…でも…大嫌い」
「そう…」
「だって、まだ高校生だよ!?愚痴だとか弱音だとか…もっと思ったままに感情を出してもいいんじゃないかな?」
「そうね」
「でも、ハヤテ君はいつも…いつもいつも『そこそこの笑顔』で…自分の感情に盾をして…あの笑顔を見るたびに他の表情に変えてやるぞって思って…気付いたらハヤテ君の事ばかり考えてた。一年生のときのハヤテ君の誕生日に、サプライズでお祝いしたんだ。そしたらハヤテ君、涙ぐんでるんだよ?それ見て、もう本気で好きになってるのに気付いた。もっといろんな表情を私だけに見せて欲しい…って。心からの笑顔とか、本気で怒ったところとか、泣いているところとか…ハヤテ君のいろんな表情が好きで、それを見たいから…かな?これが私のハヤテ君に恋してる理由」
「歩…でもなんで?」
笑顔で自分の心の奥底を晒してくれた事は嬉しい。 しかし、一体何を思って話してくれたのだろう?
「だってヒナさん、『なんで自分はハヤテ君が好きなのか分からない』って顔に書いてあるよ?」
「えーっ!?」
図星を突かれて顔が赤くなっていくのが分かった。 実際に書いてあるわけじゃないのに、必死に袖口で頬を擦る。
「ああもう、ヒナさん可愛いなぁ…」
「ちょ、歩〜!」
悪態をつく私などお構い無しに彼女は笑う。
「それに、ヒナさんになら言っても良いかなって…。普通、ライバルの気持ちなんてどうでもいい…消えちゃえば良いのにとか思うでしょ?でもヒナさんは、私のハヤテ君への気持ちを大切なものだって言ってくれて、嬉しくて…。そういうところ、すごくヒナさんっぽいなぁ〜って…さっき笑ったのは、こういうコトです。ホント、ヒナさんが男の子だったら…ハヤテ君以上にゾッコンだったかも」
「……」
私という人間は、本当に良い親友を持ったものだ。 共通の想い人が友情を育む…なんとも奇妙な関係だと思う。
それと同時に、私と彼女との差を思い知る。 彼女の熱く滾る想いを前にしてもなお、私は自分自身の彼への好意を説明することが出来ない。 情けない…「恋心」が聞いて呆れるのではないだろうか。
「私、ハヤテ君を好きでいる資格なんてあるのかな…?」
「資格?」
「うん。私は歩みたいに『好き』って言えないし、すぐに手が出ちゃうし、なんで好きなんだかワケ分からないし、女の子らしく見せたとこなんかも無いし…私なんかが本気の本気で恋をしている歩と同じ土俵に立っているなんて…「ヒナさん!!!!」
「ハイっ!?」
後ろ向きな言葉を並べる私に一喝。
「ヒナさんは…ハヤテ君の事が好きなの?そうじゃないの?」
「……!!」
その字面だけ見れば、ただただ今さらな質問。ただ、実態はそうではない。 表情が違う。眼が違う。空気が違う。 これは…私、桂ヒナギクの心の奥底に対しての、西沢歩の本気の質問。 この返答ひとつでこれからの二人の関係を大きく変えてしまいかねない質問だと察した。
もちろん、その答えは決まっている。 が、その言葉を発するにはさっきまでの私では心が浮つきすぎていた。 彼女の熱い想いを耳で、肌で、心で感じたことで、自分の気持ちが大きく揺れていたのだ。
フーッっと大きく深呼吸する。 気持ちの揺れを抑えて、彼女の眼を見る。決して逸らしたりはしない。
「私は…ハヤテ君が好き。臆病な私は口に出来ないけど…この気持ちは本当よ」
「うん…はぁ〜良かった」
私の本気の回答に、張り詰めた空気も一瞬にして緩む。
「ゴメン歩…私、バカな事言った」
「ホント、ヒナさんはハヤテ君が絡むとバカになるんだから…。資格なんて、そんなの自分で決めるものなんじゃないかな?私だって告白して…一回断られてるし、好きになるのに資格が必要だったら、きっと脱落してるよ?」
「……」
「とりあえず、好きな理由なんてものは後から思い出す事にして、今はもっともっとハヤテ君に恋してみたらいいんじゃないかな?『その先の恋が大切でしょう』って、歌ってた人もいるし…」
「…そうね」
「もっともっとハヤテ君に恋をする」…そんなこと、好きだと気付いてから、考えもしなかった。 こうやって前向きに恋し続ける彼女は本当にスゴイと思う。 事あるごとに一喜一憂し、そのたびに立ち止まってしまう私が一番見習わなきゃいけない事だと痛感する。
「私、もっと頑張るわ!!」
「あの…ヒナさん、あんまり頑張られても困るのですが…」
・・・変な間がひとつ
「ぷっ…ハハハハハ!!」
「もー、ヒナさん!ホントに困るのに…ハハハハハ…!!!」
互いに大笑い。そりゃそうよね。 本来なら恋敵同士で、頑張られるのなんてまっぴら御免なのに。
「ありがとう、歩。…それじゃあ続きやるわよ〜!さっきからペンが止まりっぱなしじゃないの!!」
「うえ〜、気付かれてたか…」
まだ結果は見てないけど、同じ人を好きになる事は悲劇じゃない。 この人となら、自信を持ってそう思える。
◆
「…とは言ったものの」
寝床に就き、改めて考えてみる「桂ヒナギクが綾崎ハヤテに恋する理由」 いつだったか、歩に言った「一目惚れ」も確かにそうだ。 でも、それだけじゃない。心の奥で、いつも引っかかっている。
笑顔が素敵で、女装するとなんか知らないけど可愛くて、口を開けばすぐ失礼な事言って、それでも好きで… でも彼は他の女の子が好きで、また他の女の子に絡まれて、私の気持ちなんか知らないで…
「…グスッ」
いけないいけない…。 少し頭を冷やす必要がありそうだ。
上着をはおり、庭に出る。 初夏の夜の程よく涼しい風が髪をなびかせて心地良い。
ふと見上げると、月ひとつ。 満月からは少し欠けてしまってはいるが、なかなかどうして綺麗なもので、私の視線はその月に釘付けになる。 「愛しのあの人も同じ月を見ているのかな」とロマンティックなセリフを吐くには遅すぎる時間だ。 残念ながら、あんなものを見ているのは、私か夜逃げ屋さんくらいのものだろう。
「あれ…ヒナギクさんですか?」
「ひっ!!!?」
驚いた。さすがに驚いた。寿命が縮まったかもしれない。 こんな時間に後ろから声をかけられるだなんて、大抵の人は思わない。 声の主は彼だ。彼しかいない。
「は、ハヤテ君!?」
「こんばんは、ヒナギクさん。どうしたんですか?こんな時間に…」
「…こんばんは、ハヤテ君。ちょっと眠れなくて、頭を冷やしに。…貴方こそどうしたの?」
「ようやく勉強も一息ついたんで、寝る前にちょっと気分転換をと思いまして。」
同じ屋根の下に住んでいると、こんな事もあるのだろう。 ともあれ、こんな時間まで勉強とは、執事の仕事もあるというのに勤勉なものだと改めて感心する。
「それにしてもヒナギクさん、眠れないだなんて、何か悩み事ですか?僕でよければ助けになりますよ」
「……」
--------------------------------------- @「お前のせいだよ!(ビシッ)」 A「何でこんな時だけは鋭いのかしら」 B「貴方でいいんじゃなくて、貴方じゃなきゃいけないの!」 C「助けてくれると言うのなら…添い寝しなさい!」 D「告白…しようかな?」 ---------------------------------------
一瞬のうちに思いついた回答は5個。うち乙女(?)な感じのは3個。乙女度(?)60パーセント。 …我ながら、あんまりにもどうでもいいフル回転を披露してくれるくれる脳味噌ね。
「ううん…大丈夫よ。なんか目が冴えちゃっただけだから」
「そうですか。では眠くなるまで少しお話しましょうか」
「フフっ…ありがとう」
思いがけずラッキーな展開。あの月を見るのは私と夜逃げ屋さんと彼となった。 …どうでもいい事だけど、彼は夜逃げの経験が豊富だったという話を思い出した。
話したのは学校の事、生徒会の事、部活の事、執事の仕事の事、バイトの事… 本当に取りとめも無い、眠くなりそうな話ばかり。でもそれが幸せだった。 彼が私だけに話しかけ、私だけの言葉を聞いてくれる。 まるで世界の全てを手にしたような満足感でいっぱいだ。
「そういえば…」
「?」
「私の誕生日の時も、こんな綺麗な月だったわね。」
「そうでしたね…」
そう、あの時に彼への恋心に気が付いた。 今さんざん悩んでいる「綾崎ハヤテに恋する桂ヒナギク」が生まれた瞬間。 あの生徒会室のテラスから見た月は、多分一生忘れる事は無いだろう。
「やっぱり…まだ、怖いですか?」
「……」
あの時と同じ質問に、目を瞑り、あれからの毎日を思い出す。 お姉ちゃんがいて、今の両親がいて、友達がいて、恋敵がたくさんいて、その中には親友もいて…そして、ハヤテ君がいる。 その皆が、私という存在を見てくれていて… 当たり前の日常が当たり前にあることに、心が温かくなる。
「いいえ、怖くないわ。…ハヤテ君のおかげよ。あの時の『今いる場所(ここ)は、それほど悪くない』って言葉は、今でも私の心の支えになってる。…いいえ、悪くないどころかとても幸せよ」
これが私の本心。 「本当の両親に会いたい」とか「ハヤテ君と結ばれたい」とか、欲を言えばまだまだ出てくるけど、今いる場所(ここ)はとても満ちたりている。
「いやぁ〜覚えてらしたんですか、お恥ずかしい…不幸の権化の僕が生意気な事を言いましたよね〜」
「ううん、そんな事全然ない!貴方がいて、私は幸せ。コレだけは確かな事よ!!ただその人がいるだけで、幸せに感じる…貴方にもあるでしょう?私には『その人』っていうのがハヤテ君なの」
「え!?それって…」
興奮して思わず要らない事まで口走りそうだった。 私は泳いだ目で話題を逸らす。
「そ、それより!貴方はどうなの?ナギやマリアさんがいて、アリスがいて、ハル子がいて、学校の皆がいて、歩がいて。その、私もいるけど…。それでもまだ、自分は不幸だって思う?」
彼は俯く。 きっと、私と同じように彼自身の「今いる場所(ここ)」の事を思い返しているのだと思う。
「そうですね…自分の周りの人達がいて、その全ての人が自分を見守ってくれています。こんなに幸せな事は無いですね。そんな僕が不幸だなんて、筋違いもいいとこですね。いつも感謝してるつもりでしたけど…」
「私だってそうよ。すぐにそれが『当たり前』になって、本当に大切なものを見失っちゃうわ」
「ハハ…当たり前の幸せが大切なのにそれが当たり前になってしまうから感謝を忘れるだなんて、皮肉なものですね」
「そうね…それが無くなって、きっと初めて事の重大さに気付くのよ」
そんな事を言いながら思った。 彼のいる日々が「当たり前」になっているんだと思う。 だから想いは伝えない。彼のいる明日は当たり前に来ると思っているから。 「いつか」伝える、伝わるものだと思っているから。 きっと、彼がいなくなって初めて後悔することになる。 せっかくの「今いる場所(ここ)」で、今戦わない。
ようやく気付いた。 これじゃ私…ただのバカじゃないの…
「ホント、ヒナギクさんにはいつも大切な事を気付かせて貰いますね」
「…この前はひっぱたいてごめんなさい」
「へ?」
彼の言葉を遮っての謝罪。 大切な事に気付いたのは、私も同じ。 今度こそ、彼の助けになってみせる…!!
「だから、女装してた事情を聞いたときの…」
「ああ〜、いえいえ。アレは全部僕の言い方が悪かったから…」
「どうせ…また一人ではどうしようもないようなややこしい状況に陥ってるんでしょ?」
「あ…」
「力になれるかどうか分からないけど、とりあえず私で良ければ話を聞くわ」
ハヤテ君にもっともっと恋する… そのためにはもっと彼とコミュニケーションを取らないと!
私の言葉に、彼は嬉しそうに考える。
「で…では早速ヒナギクさんにお願いしたい事があるんですけど…!!」
「え…?な、なに?」
彼の勢いに少したじろぐ。 どんなお願いかしら…?何でも言いなさい!!
「次に女装する時、ヒナギクさんの服を貸してください!!」
…肌寒い風が吹いた気がした。
「胸のあたりとかがほら…"ピッタリ"なんで」
プチッ
「ほら」って何よ!? ピッタリって、胸の無いことをどれだけバカにすれば気が済むの!? ていうかまた女装する気マンマンなの!?ふざけるのもいい加減にしなさい!! こんな奴…こんな奴…!!
もう頭は沸騰状態で、拳なんかは固く握られて、悔しくて歯で唇噛み切って血が出てるし、もうものすごい殴りそうになってるけど。
…それでも好きだから困る。
「あわわわ、ヒナギクさん。僕また失礼な事を「…良いわよ」
手が出るのは抑えた。かなりギリギリのラインだったけど… 胸の事を言われたのによく我慢したと思う。
「何着必要かしら?ひょっとしたら女装する時に私が留守になってるかもしれないから、明日にでも取りに来ると良いわ」
「ヒナギクさん…?」
キョトンとする彼。 きっと、胸の事を言われて、また私が殴りかかってくるとでも思ってたのだろう。 自分で言っておいて、それは無いんじゃないかしら?
…でも、そんな所も彼らしいと、この瞬間は思える。
「事情なら、状況が落ち着いてから、まとめて話してくれれば良いわ。私には皆目見当も付かないけど…あの子を守るのに女装する必要があるんでしょ?だったら私は貴方を信じるわ。服を貸すだけでいいのかしら?他に何かある?」
「ヒナギクさん…」
非常に悩ましい顔で俯く彼。 なるほど、今回も私の想像以上に困難な状況にいるのだろう。 言えて良かった。ようやく…ようやく彼の助けになれそうだ。
「ヒナギクさん、ありがとうございます。…でも申し訳ないですが、やっぱり結構です!」
「え?どうしたの?」
貸せと言ったから貸すと言った。そしたら今度はやっぱり結構と言う。 もう何がなんだか分からない。
「僕の我が身可愛さから出たウソに、ヒナギクさんを巻き込む訳にはいきません。…ホントに、僕はバカですね」
「……」
あえて何も言わない。彼からの言葉を待つ。
「彼女…ルカさんと初めて会ったのが、何故か女装してた時で…」
彼はこれまでに至るまでの事情を、洗いざらい話してくれた。 始めからこうやって話してくれれば余計な誤解なんて生まれなかったのに…。 というか、やっぱり今回もややこしい状況ね。
「ですから、ヒナギクさんにまで僕のバカなウソの共犯になんてなって欲しくありませんので…。せっかくのご厚意でしたけど…」
「そうね、ウソにウソを重ねても良いことなんて無いわね…。でも、それならまた別の方法で協力出来るわね?私から彼女に説明するとか…」
「いえいえ、そんな事をヒナギクさんがする必要は無いですよ!!全部僕が悪いので「ハヤテ君!!」
「…ハイっ!?」
ちょっと歩の真似をした。(時間が時間なのでやや控えめな声で) 一喝する私に、やはり彼は驚いているようだ。
「事情が聞けて良かったわ。ハヤテ君じゃ、一人で事情を説明する時にまた相手に要らぬ誤解をさせちゃうでしょ?それに、私にはそこまでする必要が
あるの!…ハヤテ君、今困ってるんでしょ?」
「…はい」
「なら少しは協力させなさいよ。私たちは一人じゃないんだから。困ってる貴方の顔なんて…見たくないわ」
「ヒナギクさん…」
ぱぁぁと彼の表情が明るくなった気がした。 やはり、ずっと一人で背負い込んでいたのだろう。
「また改めて、これからの行動を考えましょう?きっとウソをつき続ける事より良い方法があるわよ!!」
「ありがとうございます。ヒナギクさんとなら百人力ですね!!…でも、あんなに失礼な事を言ったのに、どうして?」
「うーん…失礼だと思うなら、何で言ったの?私が胸の事を気にしてるの、知ってるでしょ?」
「あわわわ、スミマセンスミマセン」
慌てて平謝りする彼の姿に心が和む。 目を瞑り、心を落ち着け、覚悟を決める。 これから言おうと思っている事に不思議と恐怖は感じない。
「話が逸れたわね。ハヤテ君の事が…好きだからよ」
「…え?」
「聞こえてないならもう一度言うわよ?貴方の事が好きだから!」
「え、ええ!?」
「困っているのなら、手助けするわ。辛いのなら、肩を貸すわ。服が欲しいならいくらだって用意するし、不用意にコンプレックスを突っつかれてももう怒らないわ。嫌われていると思っていたなら、完全に勘違いだと思っていいわよ」
「ヒナギクさん…でも」
非常に困惑している顔だ。そりゃそうよね。 自分の好きな…私以外で好きな人を公言している身としては、気まずい事この上無いだろう。
「ハヤテ君は天王州さんが好きなんでしょ?」
「え…は、はい」
そこは否定して欲しかったんだけどな…。 でも私は折れない。ようやく覚悟を決めたのだから。
「『彼女のためなら、火の中水の中なんのその』って思える?」
「…はい」
「私も同じよ。だから、貴方を信じて助ける。火の中水の中何でも来なさい!…よ。これで納得出来たかしら?」
「…ハイ。ヒナギクさんらしいですね…男前で」
彼も私の覚悟を察してくれたみたいだ。
「『私と付き合え』だとか『私の執事になれ』だとかなんて言わないわ…でもコレだけはハッキリさせないと、また誤解が重なるだろうから…。ごめんなさい、いきなりこんな事…」
「いえいえ、ヒナギクさんが謝る必要なんて…!僕の方こそ、ヒナギクさんに気遣いもせずアーたんアーたんって…」
「いいえ、それは間違ってないわ。だって、ハヤテ君は天王州さんが好きなんでしょ?それを私に気遣うだとか、謝るだとかというのはちょっと違うわよ」
「ヒナギクさん…」
自分のワガママを通すからには、その相手の恋に対してだって敬意を払わなきゃいけない。 これが私の出した結論だった。
「好きなものは好き…それで良いと私は思うわよ。別に恥ずかしい事ではないじゃない?」
「『好きなものは好き』…そうですね、全然恥ずかしくないですよ」
「うん。だから、胸を張って言えばいいと思うの。…今、『張る胸なんて無いくせに』って思ったでしょ?」
「え"っ…そんな事ひとつも…」
「…ホントは?」
「ちょっとだけ」
「コラッ」
ビシッと軽くツッコミを入れる。 彼がそんな事を思うはずもなく、私に話を合わせてくれていたのだと分かる。 思えば、自分でこのコンプレックスをネタにしたのは初めてだった。
「こんな遅くまで、話してくれてありがとうハヤテ君。とっても楽しかった。さて、もうそろそろ寝ましょう?」
「…そうですね。こちらこそ楽しかったです」
◆
「…じゃあ、私はトイレ行ってから寝るから…水蓮寺さんとの事はまた明日ね!」
「はい。…では、おやすみなさい」
「おやすみ〜」
別れて、彼の部屋の扉が閉まる音が聞こえたら、私は再び庭に戻った。 こんな胸の高鳴る夜に、寝られる訳がなかった。
相変わらず、綺麗な月が空高くに輝いている。
「…これで良かった」
誰に聞かせる訳でもない。ただ、自分に言い聞かせた。 私の決めた道。後悔しない。やっとスタートラインを越えられた。 もっともっとハヤテ君を好きになる。 素直な気持ちをもっとぶつけてみせる!!
「好きだよ…貴方も、今いる場所(ここ)も」
イバラの恋の道の一歩目は、満面の笑顔で迎える事が出来たのだった。
おわり
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【あとがき】
と言うわけで、完全に現実を直視して走り出したヒナの巻でした。
ヒナがこの状態になる事で、ハヤテの行動が変わっていく事を望みます。 「ヒナギクさんが変わった。自分もこのままじゃいけない」といった感じで、アーたんの事やら、自らを取巻く女の子の事やら敏感に対応していって欲しい。(切実
ちなみに、歩の言っていた歌は伊藤静さんの『いいでしょ』です。ヒナ名義では無いですが、とてもヒナヒナしてる声で歌ってくれているのでオススメです。
ところで、連載スレ「しあわせの花」の方ですが…。クイズ大会の作品も終わったので、ボチボチ着手しようかと思います。 長らく読者さんを待たせています。反省。(更新頻度を上げるとは軽はずみに言えない…orz
そんなこんなで、お付き合いありがとうございました。 ご感想・ご質問などお待ちしてます。
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