Re: しあわせの花(ハヤヒナ)【ヒナ編第5話更新】 |
- 日時: 2012/08/19 01:43
- 名前: ロッキー・ラックーン
- こんにちは、ロッキー・ラックーンです。
ヒナ編最終回…の予定でしたが、まだ続いちゃいます。
前話に引き続き、デート前夜(深夜編)です。 それではどーぞ!
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「告白…かぁ…」
電気もついてない縁側で、ひとり夜空を眺めながらため息をひとつ。 東京都内とはいえ、ここの庭から見える星はなかなかに綺麗で、私は好きだ。 「雲の切れ間に散りばめたダイヤモンド」だなんてロマンチックな表現をした人も、きっとこうやって夜空を眺めるのが好きだったに違いない。
「綺麗…まるでジンライムのようなお月様ですね」
「…マリアさん」
「こんばんは、ヒナギクさん」
「こんばんは」
現れたのは今晩二度目の超人メイドさん。 印象的な月の例え方に特にツッコミも入れず、ふたり静かに空を見上げるのだった。
しあわせの花 -Heart of Daisy- 第6話【 Spring will come!! そのC『Tiny Star』 】
「ナギからのお話、終わりましたか?お茶、どうぞ」
「はい。ありがとうございます」
マリアさんが差し出してくれたお茶を受け取って答える。 夜になるとだいぶ冷えてくる季節、温かいお茶はありがたい。
「スミマセン。『ハヤテ君にちゃんと気持ちを伝えろ』と言った私が(←ヒナ編第1話参照)ヒナギクさんの告白を邪魔する手助けなんてしてしまって…」
「いえ、いいんです。最終的には、私がナギの意志を尊重したいと思ったので…。変わりましたね、あの子…」
「はい。私も最近、本当に成長したんだなって思います。アリスさんと仲良くなりだしてからでしょうか…」
「そういえば、そんな時期くらいからでしたね」
目を閉じるとまぶたに浮かぶのは、二人のイタズラな笑顔。 思えば彼女たちには本当にお世話になったものだ。
「少し、妬けてしまいますね」
「?」
「私が何年一緒にいても変えられなかったあの子を、出逢って間もないハヤテ君やアリスさんが見違えるように成長させてしまうんですもの」
「クスッ」
口を3の字にして言うマリアさんに、思わずふき出してしまう。 無敵のスーパーメイドさんでも、愚痴をこぼす時の理由は月並みなものだった。
「ムム〜、ヒナギクさんまで私の事を笑うんですか?」
「い、いえ。そんなつもりは…。ただ…」
「ただ?」
「変わる事だけが良い事じゃないとも思います。マリアさんはナギにとって『心の拠り所』であり、『帰ってくる居場所』なんです」
ちなみに、私にとってのお姉ちゃんがそれ。 「初めて」をくれたのはいつもハヤテ君だけど、お姉ちゃんという存在の力強さや安心感は小さい頃も今も何ひとつ変わってはいない。
「それはまるで止まり木のような…だから、マリアさんの前だけではいつまでも変わらないナギでいられるんだと思います」
「止まり木ですか…。ヒナギクさんに言われると、説得力がありますね…」
「……」
誰と比べての説得力かは聞かなかった。 口下手な彼は、おそらく要らぬ発言をしてマリアさんを刺激した事だろう。
「ハヤテ君に同じ事を言ったら、『マリアさんは、このアパートみんなのお母さん的存在ですから』なんて言うんですよ〜!私はピッチピチの17歳なのに…プンスカ」
「ははは…」
乾いた笑いで返さざるをえなかった。 なんで彼は他人のコンプレックスを突くのがこんなにも上手いのだろう? …ソコを含めて、彼の人間性の魅力とも言えるけど。
「ところで…ヒナギクさんはハヤテ君のどんなところが好きなんですか?」
「え゙?」
不意をつくパスに、一瞬言葉に詰まる。
「いきなりですね…」
「ええ。そういえばお聞きしてなかったなと思いまして…」
「…笑わないで聞いて頂けますか?」
「はい、もちろん!」
ちなみに以前、同じ事をナギにも聞かれたけど、その時はハッキリと答えられなかった。(ヒナ編第3話参照) あれから一度、本気で考えてみて私なりの現段階での回答を出してみたものをこれから言おうと思う。
「きっかけは初めて出会った時でした。…一目惚れです」
「まあ…」
「それからずっと気になっていたんですけど、どう接していいか分からなくて…。ていうか、自分がハヤテ君に恋してる事を自覚してませんでした。でも、ある時気付きました。『私はこの人がスキなんだ』って。…そう気付かせてくれたのも、ハヤテ君でした」
「そうですか…」
マリアさんは笑顔を絶やさない。 その笑顔に、私はさらに心の奥底をさらけ出す勇気をもらった気がした。
「私、人をスキになる事が怖かったみたいなんです。スキになるといなくなってしまう気がして…」
「……」
「でも今は違います。私の周りにはハヤテ君がいて、アリスがいて、歩がいて、ナギがいて…そこにはもちろんマリアさんもいます。みんなみんな大好きです。『今いる場所(ここ)は、それほど悪くはない』…いえ、今いる場所(ここ)は、私のかけがえの無い居場所なんです。こんな幸せな気持ちにしてくれたハヤテ君に、私はどうしようもないくらいに惹かれてしまいました」
16歳の誕生日の時にハヤテ君からもらった言葉。 あの言葉に、今の私がどれだけ支えられているものだろう。これからもずっと…多分、一生覚えてると思う。 それほどまでに私の人生に衝撃を与えてくれたのだった。
「ちょっと取りとめないですが…コレで答えになってますか?」
「ハイ。ヒナギクさんは、本当にハヤテ君の事が好きなんですね」
「改めて言われると照れちゃいます…」
「あらあらうふふ…」
変わらないマリアさんの笑顔。 まるで全てを見透かしているようなその瞳を、私は直視できなかった。
それきり、私たちの会話は途絶えた。 といっても、気まずい空間というわけではなく、ふたり無言で綺麗な夜空を見て楽しんでいた。 柔らかく光る月の姿は、どことなくハヤテ君の笑顔を連想させた。
あの柔らかくて優しい笑顔を、明日は見る事が出来るのかな? あの笑顔で「好き」だなんて言われたら、私はきっと天にも昇る気持ちになるのだと思う。 私の気持ちを伝えた時の貴方の顔も、そんな笑顔であふれていたらいいな…
・・・
「これは私の独り言なのですが…」
「…?」
長い沈黙を破るマリアさんの声。 独り言なので私は視線を合わせずに聞き耳を立てるだけ。
「今思えば私も彼の事…好きでした」
「……」
独り言…あくまで独り言だと自分に言い聞かせ、彼女の話をさえぎらずに聞き耳を立て続ける。
「でも、彼の事を想う度に…無意識に『その人』の顔が頭によぎってしまって…その人を悲しませる事だけは、私にはどうしてもできなくて…気付いたら、彼の事を考えるのをやめてました」
「……」
「ヒナギクさんの熱い熱い想いの一部に触れて、ちょっと思い出してしまいました…。結局、私は何かに言い訳をして、自分の想いをさらけ出す事を拒んでいたんじゃないかって、今は思います…」
「マリアさん…!」
思わず声が出てしまった。 私だって言い訳ばかりだった。ただ、周りのみんなが導いてくれたから素直になれた。 アリスが、歩が、ナギが、マリアさんが…みんなの存在無しでは、彼とはただの知り合いで終わっていた。
「あら、ヒナギクさん…まだいらっしゃったのですか?明日は大事な日ですし、そろそろお休みになってはいかがでしょう?お片付けは私にお任せください」
「…そうします。お茶、ごちそうさまでした」
私はマリアさんに話を合わせる。 本人が話すのをやめた以上、この話題に関して詮索するのは無意味だし、なにより酷だと思ったから。
「いえいえ、お粗末さまでした。ヒナギクさんとお話できて、良かったです」
「私もです。ありがとうございました!では…」
「ハイ、おやすみなさい…あっ、ヒナギクさん!!」
「はいっ!?」
自室に歩を向けていた瞬間の呼びかけに、少し驚いた。 向き直って目に入るマリアさんの表情は、これまで以上に穏やかで優しかった。
「ヒナギクさん、ハヤテ君は血は繋がってませんが、私の大事な大事な家族です。…幸せになってくださいね!」
「ハイ!…って、まだ恋人になったワケじゃありませんが…」
「うふふ…では、おやすみなさい」
「ハイ、おやすみなさい」
・・・
部屋に戻り布団に入っても、まぶたから離れないマリアさんの笑顔。 私の恋は、みんなのたくさんの想いに支えられている。改めてそう思った。 明日という日は、きっときっと良い日になるに違いない。
【そのCおわり】
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【あとがき】
実はマリアさんもハヤテが好きでしたという回でした。 といっても、ハヤテ編第7話でちょろっと漏らしてましたけど…。 『その人』というのはもちろんナギです。 原作4巻で、ハヤテが歩に告白されたときのモノローグを参考にしました。
ところで、冒頭の「ダイヤモンド」と「ジンライム」のくだりは、大好きな曲の一節からお借りしました。 ネタを分かってくれる人がいれば嬉しいです。
さてさて、前書きでもお伝えしたとおり、マリアさんとの絡みでヒナ編終了にしようかと思ってましたが、もう一話だけ続けます。 ハヤテ編でそれとなく出した伏線を回収しようと思って書いてたら長くなってしまい、一話分使おうかなという結論に至りました。 お付き合い頂いて感謝感激です!
ではご感想・ご質問などお待ちしております。 ありがとうございました。
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