Re: 大切なヒト (10/3更新) |
- 日時: 2013/10/03 10:32
- 名前: サタン
- 午後五時を回った冬の空は既に真っ暗だけど、
わざわざ空を見上げなくちゃそんなことにも気付けないくらい、街中はきらびやかな光で満ちている。 街灯やネオンやイルミネーションや、たくさんの灯りに照らされて、街行く人々も皆楽しげで、 そんな中、MTBに跨って必死の形相で爆走する私はかなり目立っているんじゃないかなと思う。 でも実際、必死なんだからしょうがない。
ヒナさんから電話をもらったのは30分ほど前のこと。 ついこの前、勇気を振り絞った二度目の告白が玉砕に終わった後、 そのことをヒナさんにだけは伝えて、電話口でわんわん泣いてしまったものだから、 もしかすると心配して電話をくれたのかな? くらいに思ってたんだけど、 その内容は簡潔で…そして、もの凄いショッキングだった。 失恋のショックでちょっと引き篭もり気味だったはずの私が、こうして街中を走り回るくらい… 『いきなりでごめん、歩…いい? よく聞いて』 「は、はい? どうしたんです?」 『今、ハヤテ君に会ったの』 「え…そ、そうですか…」
ハヤテ君の話題は、今はまだちょっと胸に痛かったけど、 ヒナさんがハヤテ君と会っていた、というのもなんとも言えず悩ましかった。 なんたって今日はクリスマス・イブ、そしてヒナさんは…ハヤテ君のことが、好きなのだ。
知り合って間もない頃、私の恋を応援してくれると言った彼女だけど、 気が付いたらヒナさんもハヤテ君のことが好きになっちゃったみたいで、 自分にも、私にも、嘘はつけないって…謝られたっけ。
ヒナさんはハヤテ君の好みのストライクゾーンど真ん中な人だし、 正直言ってショックは大きかったけど、 そういうことを包み隠さず言ってくれたヒナさんはやっぱり格好よくて、 それに…私自身、ヒナさんのことを友達として好きになっていたから… 結局、私たちは親友で、そして恋のライバル、みたいな関係になっちゃっていた。 どういう結果になっても、お互いに恨みっこもなし、みたいな。
だからヒナさんがクリスマス・イブにハヤテ君と会ったと言われたら、 やっぱりそっちの方向に想像が進んじゃうのも仕方ないんじゃないかな、って思うんだけど、 お話は、それどころじゃなかった。 『ハヤテ君…三千院のお屋敷を追い出されたって…』 「え!? じゃ、じゃあ、ナギちゃんと離れるのはいいとして、 ハヤテ君はこれからどうするのかな?」 『……』 「ええと…ヒナさん?」 『うん、ゴメン…わからないの…』 「へ…? それはまだ、決まってないとか?」 『わからないけど、ただ…もう、私たちとは二度と会えない…って…』
ちょっと突拍子も無いお話だったけど、 電話の向こうのヒナさんの声が今まで聞いたことも無いような涙声だったことに気が付いて、 そのお話が真実なんだって、わかってしまった。 そして思い出すのは…一年前のこと。 ある日突然、何も言わずに私の前から姿を消してしまったハヤテ君…残された私… そんなことが頭の片隅をふっとよぎって――
「ひ、ヒナさんっ! どこで! どこでハヤテ君と会ったんですか!?」 『え、あ…その、うちの近所の…それで、駅の方に歩いていって…』 「わかりましたっ!」
もう、じっとしてはいられなかった。 二度も振られて流石にちょっと悩んでいたはずだったんだけど、 やっぱり私は、どうしようもなくハヤテ君のことが好きみたいで…
『あ、ねぇ、歩!』 「は、はい?」
速攻で携帯を切って外に出ようとした私の気配を察知したのか、 ヒナさんが慌てて声をかけてくる。
『あの…この前あんなことがあったばかりで、こんなこと頼むのは酷だってわかってる、けど… ごめん、歩…ハヤテ君をお願い…私じゃ、止められなかった… けど、あなたなら…』
それについては、どうだろうって思う。 何せ私は振られたばかりで、私なんかが例えハヤテ君を見つけられて、引き止めたとしても、 無駄なんじゃないかな、とも思うんだけど…でも!
「わかりました…任せてください!」
それで諦めちゃうくらいなら、多分二度も告白なんかしないんじゃないかな…って。 だから私は、ただハヤテ君に会いたい一心で家を飛び出して、MTBで駆け巡っているわけなのだ。 とは言え…こんな都会のど真ん中で一人の男の子を探し当てるのはやっぱり至難の業で、 一時間も漕ぎ続けて、流石にへばってきた…丁度そんな時だった。 綺麗な金色の髪を二つに結んだ、もう一人のライバルと出会ったのは――
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