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対象スレッド 件名: secret nightmare【1】
名前: 春樹咲良
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secret nightmare【1】
日時: 2013/06/30 17:08
名前: 春樹咲良

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ああ,まただ。また同じ夢。
夢の中のあなたは,まだ私の見たことのない顔で私に笑いかけてくれる。
見たことがないのだから知るはずもないのに,確かに分かるのだ。あなたにとって特別な人にだけ見せてくれる優しい顔だと。
そして同時に気づくのだ。これは夢だと。なぜなら,都合が良すぎる。
あなたはきっと,私にこんな風に笑いかけない。





「あれ,起きてたんですか」
明け方。いつもよりわずかに早く目が覚めてしまったので,水を飲みに台所を覗くと,やはりハヤテ君が居た。
「それは私のセリフよ。本当に,一体いつ寝てるの?」
「ついさっきまでは寝ていましたよ。執事ですから,皆さんより先に寝るわけにも,皆さんより後に起きるわけにもいかないだけです」
「どこの関白宣言よ,それ」
どう計算しても一日三時間寝ているとは思えない。しかし,私が起きていてハヤテ君がまだ寝ている朝というのは未だかつて訪れたことがない。
「関白宣言と言えば」と,ハヤテ君は朝食の支度をする手を止めずに,笑いながら答えた。
「ヒナギクさんには,『亭主関白』という言葉が全然似合いませんね。いやぁ,ていうかむしろヒナギクさんが関白みた……あいたっ」
「あらごめんなさい,ちょっと手が滑ったわ」
相変わらずびっくりするほど失礼なことを言う。
「どう滑ったら白桜が僕の頭に命中するんで……」
「もう一回滑る?」
「いえ,なんでもないです」
わかればいいのよ,と言いながら,なんだか自分が本当に関白みたいだなと思ってしまった。しかし,そうだとすると,
「私が関白なら,ハヤテ君がお嫁さんって言った方がずっとしっくり来るわよ」
言ってしまってからもの凄く恥ずかしいことに自分で気づいてしまった。みるみる顔が赤くなっていくのがわかる。慌てて,
「ほ,ほら,憎たらしいくらい女の子の格好似合うし」
と付け加えた。自分が関白たる亭主で,ハヤテ君が嫁だなんて,我ながら発想がおめでたいにも程がある。大体,いくら彼の働きがお嫁さん的だと言っても,ハヤテ君はここに住んでいる全員にとってのお嫁さん的存在と言うべきだ。
「ははは,前にも似たようなことを言われたことがあります」
取り繕う私に気づかない様子で,ハヤテ君は苦笑混じりに言った。
「ご飯はおいしいし,身だしなみも清潔に保っているし,文句なしにいいお嫁さんね,ハヤテ君」
気づかれなかったのをいいことに,少しだけ追い打ちをかけてみる。ハヤテ君は,やめてくださいよ,と言わんばかりに手をひらひらと振ってそれをあしらうと,話題を変えるように言った。
「それにしても,『関白宣言』だなんて,随分古い歌をご存じですね」
「そうかしら。でも,有名な部分だけ歌詞を知ってるだけよ。全部聴いたことは無いと思う」
「そうなんですか。まぁそういう人の方が多いでしょうね」
結婚する前にこれだけは言っておく,ということを夫になる男性が妻になる女性に対して列挙している歌だと漠然と思っていたが,違うのだろうか。
「ハヤテ君はちゃんと聴いたことがあるの?」
「ええ,一応,昔やってたバイトの関係で,70〜80年代の歌謡曲はひととおりフルコーラスで歌えますよ」
どんなバイトだったのかは聞かないことにしよう。しかし,そう言われるとどんな歌なのか少し気になる。一瞬,「じゃあ歌ってみて」と言いそうになったが,直前で思いとどまった。それこそ恥ずかしすぎて憤死する。
「じゃあ,全体的にはどんな歌なの? お嫁さんに対してああしろ,こうしろっていうのが続く感じなの?」
「んー,そういうわけではないですね。亭主は色々と要求するんですけど,その理由を後から説明するんです。自分の弱さをさらけ出しながら,相手への思いやりをいっぱいに詰め込んだ言葉が並んでいますよ」
「ふーん。今度聴いてみようかな」
聴いているところをうっかり誰かに見られないように気をつけないといけない。
そういえば水を飲みに来たんだった,と思い出し,ふと時計を見るといつも起床する時間になっていた。
「それじゃ,そろそろジョギングに行ってくるから」
「はい,行ってらっしゃい。お気を付けて」

その後,時間の空いたときに『関白宣言』の歌詞に目を通した。
最後のフレーズを読んだとき,もしもハヤテ君に歌ってもらっていたら,ということを想像してしまい――
あまりの恥ずかしさに悶えのたうち回った。


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SSを書くのは多分8年振りくらいです。
久しぶりすぎて筆が進まず,ショートショートにまとまってしまいました。

もしかして,『関白宣言』(さだまさしの歌)を知らない人とか居るのかな。
J●SRACが怖いので,歌詞をそのまま書くわけにはいかずこんな形になりました。
一度,歌詞を見てみるとよいかと思われます。

続くかも知れない。