桃風パニック |
- 日時: 2013/06/14 23:26
- 名前: ネームレス
- 「今日はハヤテの誕生日だな」
そこから始まる一人の不幸な物語。
「ああ、今日は11月11日でしたねー」
その言葉にマリアが続く。 11月11日。ハヤテのいない場所でムラサキノヤカタの住人たちが集まり、雑談をしていたらナギが突然そんな事を言った。
「そーなのです!!!」
そして、過剰反応する少女が一人。
「今日はハヤテくんの誕生日!ハヤテくんは普段から私たちのためにあれこれしてくれてるし、そうじゃなくても不幸な目に合ってるんだから、今日はハヤテくんの最高の誕生日にしませんか!?」
力説と暴走をする西沢歩。
「まあ、そうだな」
「いいと思いますわよ」
冷静に告げるのは千桜とアリス。
「ふーん」
興味無さそうに反応するのがカユラ。
「よーし!人肌脱ぐよ私!」
張り切るのがルカ。
(そうだったあああー!)
内心汗だくなのがヒナギク。
(最近生徒会の仕事が多くて頭からすっかり抜け落ちてた!何の準備もしてない…どころか、お金も今は無い!!)
ヒナギクの日常は激務だが、最近はさらに酷い。 しかも、普段からあまりお金を使わないヒナギクは冬服を買うために大分使っている。
(温暖化のせいで最近まで我慢してたけど、何というタイミングで買ってるのよ桂ヒナギク!ああ、つい可愛い服だからって衝動買いしなきゃ良かった!)
自制心の塊とも言えるヒナギクだが、冬の寒さと生徒会の激務でついつい財布の紐を緩めてしまったらしい。
(これじゃお姉ちゃんの事を言えないじゃない!しかも、よりにもよってハヤテくんの誕生日を忘れるなんてえええええ!)
ヒナギクにとってハヤテの誕生日を忘れるのは、ゴム無しバンジージャンプと同義だ。
「ね、ねえ。みんなはどんな物を渡すの?」
唯一の抵抗は、自分の共犯者を探すこと。そうすれば、さりげなく買い物に付き合うなど理由をつけて体裁を守れる。 が、
「私は数日前に腕時計を買った」
と約束を果たすナギ。
「私と千桜さんはこの後マリアさんに教わりながらクッキーを作るよ」
「今は懐が寂しくてな」
と苦笑気味の歩と千桜。
「私は教えながらケーキ作りますね」
と料理担当のマリア。
「私はアルマゲドンが綺麗な石を持ってきたのでそれを」
と淡々と述べるアリス。
「黒◯事のコスプレをと思い、すでに注文して届いてる」
と心無しか目が輝くカユラ
「私は勿論歌を歌うよ!」
と超人気アイドルのルカ。
(だ、ダメだ。みんなもう決めてる。それに、流石にクッキーを3つは…)
最終手段のクッキーはすでに二人おり、ここで申し出るのは心苦しい。 さらには皆がプレゼントを決めているという事が焦りを加速させる。
「…もしかしてヒナ。忘れたのか?」
「っ!」
流石は生徒会役員と言ったところか。千桜はヒナギクの挙動不審ぶりに気付いたようだ。 もしここで、素直に認めていたらいろいろと大変な事にはならなかったかもしれない。 だが、ヒナギクは
「そそそ、そんなわけ無いじゃない!」
負けず嫌いを発動してしまった。
(((((((ああ、忘れてたな)))))))
みんなの心(ヒナギク除く)が一致した瞬間だった。
「ま、まぁヒナは生徒会で最近忙しかったしな。忘れてもしょうがな」
「なーにを言ってるのかしらハル子!忘れてないし、だいたい生徒会なのはハル子も一緒なんだから言い訳に出来ないわ!」
(((((((言い訳に出来ないって、殆ど認めてるじゃん)))))))
遠回しに肯定している事にヒナギクは気付いていない。
「あれ?みなさんどうしたんですか?」
そこに現れたのは綾崎ハヤテだった。 その時、スーパーメイドマリアに、電撃的アイデアが閃く。
「あー、丁度良かったですわハヤテくん。少し買い物を頼みたいのですが」
「え?買い物ですか?」
ハヤテが喋っている約2秒間の間に、マリアは高速目配せをヒナギク以外の全員に送る。
「ああ。メモは今マリアが書く。そういえばヒナギクは今日は暇とか言ってたろ。ついて行ったらどうだ?」
意図を組んだナギの援護射撃が入る。その声音は渋々と言った感じだったが。
「え?わ、私?でも皆も暇じゃ」
(((((((空気読めよ!)))))))
「ほ、ほら。私と千桜さんはマリアさんに料理教えてもらうし!」
「そうだな」
すぐさま取り繕う歩と千桜。
「私も漫画のネーム書かなきゃ」
「アニメ鑑賞」
続くルカとカユラ。
「じゃあ、お嬢様とアーたんは…いいえ、何でもありません」
「何で納得されますの!?」
「不公平だぞ!?」
勝手に納得されるナギとアリス。
「私は千桜さんと西沢さんに料理を教えなきゃならないので」
と締めくくるマリア。
「「「「「「「ということで、買い物には二人で行ってきてください」」」」」」」
「「…えぇ」」
少々強引に、ハヤテとヒナギクはムラサキノヤカタから放り出されるのであった。
「なんか追い出されるように買い物に行かされましたねヒナギクさん」
「そ、そうね」
苦笑気味に笑うのはハヤテ。その隣で顔を真っ赤にしているのがヒナギクだ。 マリアが即席で作った別に今すぐ欲しいわけでも無い品の数々が書かれたメモを手に、二人は商店街を歩いていた。 そんな二人は
(ヒナギクさん。ちっとも目を合わせてくれないし、何処と無く不機嫌そうだ。また僕何かやっちゃったかな?)
(ちょー!?何でこんな状況になるのよー!?だ、男女が並んで歩いて買い物なんて…その、ででで、デートみたいじゃない! …いいえ、落ち着きなさい桂ヒナギク。これはお使い、お使いなのよ!)
見事なすれ違いぶりだった。
「ヒナギクさんはどうします?僕は買い物をしますけど」
「え?じゃ、じゃあついて行こうかし…」
そこで気付く。
(これ、別行動で今のうちにプレゼント買ってしまえばいいんじゃ?)
住人の気遣いを何だと思っていたのか。
「ヒナギクさん?」
「…あ。ええと、私も用事が出来たから別行動はどうかしら?」
「はい、わかりました。待ち合わせとかはどうしましょう?」
「そうね。買い物が終わったら連絡をちょうだい。大した用事じゃ無いからすぐに終わると思うし」
「了解しました。では」
そう言ってハヤテは去る。見えなくなったところでヒナギクは、
(こうしちゃいられない!)
一目見た感じでヒナギクは結構な量がメモに書かれていることを確認し、さらにはそれらが売られている店が結構離れている事を把握している。だとすれば、それなりに時間はあるだろう。(尚、それはハヤテの買い物の時間稼ぎのためのマリアの気遣いであることを、ヒナギクは知らない。)
「時間は…2時間、いえ、ハヤテくんの事だから1時間と30分かしら。…急がないと」
ヒナギクの一人の戦いが始まる!
1分経過 「うぅ、お母さん。どこに行ったのー」
今にも泣きそうな少年。
「………」
今にも泣きそうな少女。
(何で今日に限って目の前に迷子の子がいるのよ!)
ヒナギクには現在限られた時間しか無い。はっきり言えば、この少年を放っておかないにしても、交番に届けるのが一番だ。 だが、
「お母さん、どこ?」
誰よりも家族思いのヒナギクは、早く親に会わせてあげたい。その一心だった。
「ねえ、大丈夫?」
「お姉さん、誰?」
「私?私は生徒会長よ」
「せいとかいちょう?」
「そう。今から、君のお母さんを一緒に探してあげる」
「…本当?」
「本当よ」
「…ありがとうお姉さん!」
明るくなっていく顔に、ヒナギクはほっとする。が、いつまでも黙っているわけにはいかない。
「それじゃ行こっか」
「うん!」
30分経過 「お姉さんありがとー!」
「もう迷子にならないのよ」
何度も子どもとその親からの感謝を受け、その場を後にするヒナギク。
(やばい!もう3分の1も経ってる!)
焦りを感じるヒナギク。これから大急ぎで買うものも見つけなければならない。だが、予算はあまり無い。
(どうする?皆はちゃんとしたのをプレゼントしようとしてる。私だけ変な物は送れない。…ああ、もう!何で今になって悩むのよ私は!)
考えれば考えるほど土壺にはまっていく。
「どうしたら「いたたたたー!」…」
ヒナギクの背筋に走るのは悪寒。 ヒナギクの脳内で鳴るのは警報。
「いたたたたー!シャルナちゃーん!そこらへんに落ちてた饅頭を食べてしまったら急にお腹が痛くなってしまったですー!」
「そうね文ちゃん。大変ね。でもね文ちゃん。人それを自業自得と言うのよ」
「こうなってしまってはここから約10分歩いた所にある文の家に誰かがおぶっていかなけてばなりません!誰か助けてください!」
「いっそ清々しくなるくらいの他力本願ね文ちゃん。全て自業自得だというのに」
関わったら確実に時間を食う。それだけは避けたいヒナギクは文は可哀想だが、思考時間約1秒みまで見捨てる事を決定し、素早くそこを立ち去ろうとする。 だが、
「あー!見てくださいシャルナちゃん!あのピンク色の髪の人!生徒会長ですよ生徒会長!生徒会長だと言うのに自分の学校の生徒を見捨てるなんてどうかと思いませんか!?」
「たしかにどうかと思うけど今回に限ってはどう見てもあちらが正しい反応だと思うわ。文ちゃん。発言する前に今の自分が落ちてた饅頭を食べてお腹を壊してるというあまりにも惨めだという状況を把握した方がいいわよ」
いろいろ逃げることが不可能になってしまったヒナギク。
「ああもう!わかったわよ!連れて行けばいいんでしょ連れて行けば!」
「あー!この人すっごく投げやりです!最低です!」
「そしてあなたは馬鹿よ文ちゃん」
37分経過 本来10分の道のりをシャルナの適切なガイドにより役3分で着くという脅威の身体能力を見せたヒナギクだったが、いかんせん。やり取りで4分ほど奪われてしまった。
(もう。家が近くで助かった。今度こそハヤテくんへのプレゼントを…)
どがああああああん!!!と、背後で爆発が起こる。
「な、何!?」
そこにいたのは
「ありゃ?あれって伊澄さんとこの生徒会長さんやあらへん?」
「生徒会長さん」
伊澄と咲夜であった。
「えーと、二人は今何をしているの?」
「それはやな」
「っ!咲夜、来ます!」
伊澄にしては珍しい張り詰めた声。次の瞬間、幾度かの爆音が鳴り響く。
「な、何なのよ!」
土煙が晴れ、爆音の正体が現れる。それは、魔神としか言い表せない、ゲームで言う隠しボスのようなものだった。
「何でや伊澄さん!いつもみたいにドカーン!とやりいな!」
「そうなんですが、住宅街では…」
伊澄の力は膨大だ。その気になればたいていの敵は一瞬で蒸発…いや成仏するだろう。だが、その伊澄自身ががまだ、その大き過ぎる力を扱いきれず、逆に住宅街に被害が及ぶ。
「…本当、今日は呪われてるのかしら」
ヒナギクは俯きながら言う。それを感じたのか、敵はヒナギクに手を伸ばす。
「っ!?生徒会長さん!逃げて!」
「逃げる、ですって?」
ギャイイイイイイン!と甲高い音が鳴り響く。 ごとり、と敵の腕が落ち、消えていく。 敵の叫びが辺りを支配するが、その中で凛としたよく通る声を出す者がいた。 白桜を構えたヒナギクだ。
「私は白皇生徒会長桂ヒナギク!どんなものにも背を向けたりはしない!」
ヒナギクは敵を睨み、猛然と立ち向かっていく。
「さっさと…やられなさああああああああああい!!!!」
1時間2分経過 (今日、呪われてるのかしら?)
いつの間にか、予定の時刻まで30分切っていた。
(ああ、もう!というか、服がボロボロなのよ!)
土煙で汚れ、戦闘で所々切れている服。この格好で店に入るのは抵抗がある。
(うぅ、どうしてこんな事に)
「て、あれ?ヒナギクさん?どうしてこんな所に?」
「え"」
本来なら、もう少し後で会う予定だった綾崎ハヤテが、何故かそこにいた。いつの間にか、ハヤテの買い物コースに先回りしていたらしい。
「え、えーと、ここにいるのはただの偶然というかなんというか」
「て、うわ!ヒナギクさんボロボロじゃないですか!何があったんですか!?」
「だ、大丈夫だから」
そう言って立ち去ろうとするが、
「大丈夫じゃ無いですって!あ、僕は買い物もう少しで終わるので、良かったらご一緒しますよ?」
どこまでも間の悪い男だ。 さらにヒナギクも、ハヤテは親切心でやっていることがわかっている。そのため、強くNOと言えない。
「じゃ、じゃあお願いしようかしら?」
その声は、何処までも硬く、
「はい!」
その声は、何処までも明るかった。
(結局、何も買えなかったな)
あの後、適当に店を回り買い物を終了したが、結局ピンとくるものは無かった。
(物がダメなら、ルカみたいに行動で表せればいいんだけど…)
そのルカ自身が歌を歌い、しかも相手は超人気アイドルだ。 そんなわけで、自分も歌うわけにはいかず、なら一発芸、と考えるがヒナギクにハヤテや皆が笑ってくれるような芸をやる自信は無い。
「…はぁ」
「ヒナギクさん?」
「あ、な、何でも無いのよ!」
慌てて取り繕うが、何でもあるのがバレバレなヒナギク。
「?そうですか」
が、気づかない鈍感執事。
(んー、何をすればいいのかしら)
チラリ、とハヤテを盗み見るヒナギク。すると、何故かある一点に視線が集中する。
(………っっっっっっ!?///////)
そして、自分がある一点に視線を集中させてる事に気づいたヒナギクは恥ずかしさのあまり赤面する。
(何を考えてるのよ私は!で、でも喜んでくれるかな?て、やる方向で考えるな!)
脳内がパニックに変わる。 そして次第に、「もういいんじゃね?これで」的な方向に思考が傾き始める。 現在ムラサキノヤカタ前。
(………よし!)
ついに覚悟を決めてしまったヒナギク。
「は、ハヤテくん!ちょっと待って!」
「は、はい?」
「そ、その…今日が何の日か、覚えてる?」
「今日、ですか?うーん」
本気で悩む姿に、呆れてしまうヒナギク。
「ハヤテくん…自分の事よ?」
「僕?…ぁぁぁああ!僕の誕生日!すっかり忘れてました!」
思わずこけそうになるヒナギク。 だが、そんな余裕もすぐに消えてしまった。
「そ、それでねハヤテくん。私からのプレゼント何だけど…」
「え?本当ですか!嬉しいなー」
「そ、その、渡すからもうちょっと近くに来てくれる?」
「はい」
何も疑わず、ハヤテはヒナギクの前まで移動する。 体温、鼓動、息づかい、感覚が研ぎ澄まされてるのか、ヒナギクはそれら全てが確認できた。
(う、うわぁ、ハヤテくん、いい匂い…じゃなくて!)
ヒナギクの顔は、すでにリンゴのように真っ赤だ。
「い、行くわよ」
「は、はい」
ヒナギクに気圧されたのか半歩たじろぐハヤテだった。が、ヒナギクはその半歩を埋めるように、ハヤテに大きく一歩踏み出し、そして…
「ん…」
「!?」
唇が交わされた。 甘く、儚い瞬間は、まるで1秒が無限に引き伸ばされたように感じる。 何秒間、唇を交わしていただろう。どちらかは定かでは無いが、相手から離れ、互いの顔を見る。
「そ、その、今のは私からのプレゼントであって…決してプレゼントが用意出来てなかったというわけでは無く…」
「は、はぃ…」
「そ、その…ハヤテくん誕生日おめでとう!!!/////////」
互いに顔もまともに見れないまま、ヒナギクは走り去ってしまった。 ハヤテの17歳の誕生日は、何とも甘酸っぱいものとなった。
追記 「ハヤテ?さっきヒナギクが凄い勢いで走って自分の部屋に…て、うぉぉおおい!?ありえないぐらい顔が真っ赤だぞハヤテぇ!?」
ハヤテの誕生日会は延期になった。
ーーーーーーーーーー
どうもネームレスです。 ええ、長編片付けないまま性懲りも無くまた短編作りましたよ。 今回はハヤ×ヒナです。うーん、ラブコメって難しい。 とりあえず、これからも気が向いたらどんどん書いて行こうと思います!それでは
|
|