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対象スレッド 件名: ドルフィン・ジャンプ
名前: ネームレス
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ドルフィン・ジャンプ
日時: 2013/06/13 22:33
名前: ネームレス

『…負け、た?』

『勝った…私勝ったよ!』

同人誌勝負。
互いに互いの最高傑作を書き上げ、そして一進一退の売買を繰り広げた。
ルカは最初から多くの人に買われていく。
ナギは後半、怒涛の追い上げを見せた。
…だが、
ルカは完売。ナギは、最後の一部が残り、タイムアップとなった。

そして今、

「ハヤテくーん。少しお願いしていいかしら」

「いいですよヒナギクさん」

「綾崎くん。少し買い物に付き合ってくれないか?」

「あ、少々お待ちください千桜さん。僕もこの後買い物ですのでその時でいいですか?」

何も変わらない日常を繰り広げていた。

「いや変われよ!?」

「うわぁ!?どうしましたお嬢様?」

「いやいや、どうしたはこっちのセリフだから!同人誌勝負で私が負けて、ハヤテは晴れてルカと付き合う事になったんだろ!?」

「いや、そうは言われましても…」

「私も、ここに住んでるからねー」

ムラサキノヤカタ。
元々はナギの母親、紫子の所有物であったが、クラウスとの一悶着ののち、クラウスが預かるという形になったが、ついに返すことは叶わず、三千院家の力を失い路頭に迷っていたナギに世代を超え返還されたアパートだ。
同人誌勝負にはハヤテが商品として賭けられていた。ルカが勝ったということは、ハヤテはルカの執事、もとい恋人になったという事になるのだが、そのルカ自身がムラサキノヤカタに住んでいるため、ハヤテたちの日常は“殆ど”変わらなかった。
だが、“殆ど”に入らなかった者もいた。

「…ハヤテくん、ルカさんと付き合ってるんですよね」

死んだ魚の目の称号を手に入れた西沢歩だった。
彼女はハヤテをルカに取られまいと、あの手この手でナギのサポートをしていたが、結局ナギが負けたためハヤテの返事(※単行本第7巻第3話)を待たずして二度目の失恋をする事になった。
一度目が二次元にしな興味ない発言。二度目が自分が殆ど関与しない場所で何時の間にか。しかも相手は同じでは、彼女も救われない。

「歩。もうしょうがないわ。前を向いて歩かなくちゃ」

「ですがヒナさん。そういうヒナさんも、いつも通り振舞おうとしてますが笑顔がわざとらしいというか、固まってますよ」

「え"っ」

白皇生徒会長から失恋生徒会長にクラスダウンした桂ヒナギク。彼女もまた、かなり悲惨と言えよう。
勇気を出して告白(※単行本第22巻第11話)しようとしたら、いきなりのアテネ好きです発言で、言葉通り言葉を失い告白出来ず、さらには善意でサポートしていたルカが自分の知らない所でまさかハヤテを賭けた同人誌勝負をしていたとわ、素直に喜べない。というか報われない。
この二人はしばらくは失恋を引きずるだろう。

「いやいや、お前ら同人誌勝負から数日経ったが、全くデート一つしてないじゃないか!」

「精魂燃え尽き、今は休憩期間なのよ」

ドヤ顔で決めるルカ。

「ぼ、僕はまだルカさんと付き合ってるという実感が湧かなくて…」

困り顔のハヤテ。

「そういうナギこそ、いいんですか?終わった事ですけど、ハヤテくんとルカさんが付き合うんですよ?」

突然のマリアさん。

「いや、前々から決めていた賭けだ。ここで私が駄々をこねるわけにもいかない。ハヤテの借金も払うと言っていたしな。
だが!ここまで何も無いと負けた私が報われないだろう?」

果たして、一番報われないのは勝負に負けたナギか、何時の間にか失恋決定した歩、ヒナギクか。

「ふ、甘いわねナギ。こう見えても、実はこうやってハヤテ分を補給しているのだ!」

「ちょ、ちょっとルカさん!」

「「「!!?」」」

ぎゅっとハヤテに抱きつくルカ。ハヤテは赤面し、失恋三人組は驚愕に顔を染める。

「むぎゅー」

「あ、あの。僕買い物が…」

普段頑張り過ぎているルカ。いくら何もやらないと逆に不安になるというワーカホリックでも、流石に反動があるのか今のルカはまるで園児だった。

「う、うわあああああん!!」

「あ、歩!?」

「え?西沢さん!」

「待てハヤテ。お前が追いかけると逆効果だ。お前はいいから買い物に行って来い。ハムスターはこっちでどうにかしておく」

そう言って、ナギとヒナギクは歩を追いかけて行った。

「あ、えーと」

「ハヤテくん」

ハヤテが困っていると、マリアさんが話しかけてくる。

「過程はどうあれ、今のハヤテくんはルカさんの彼氏です。今後がどうあれ、まずはハヤテくんはルカさんとの関係をはっきりさせておいてください」

「さあハヤテくん!デートだよデート!」

「え?でもさっき精魂燃え尽きたって」

「ハヤテくんのおかげせ体力MAXだよ!ほら!」

「ああ!ルカさん!変装してください!」

「…大丈夫かしら」

マリアさんの心配は止まらない。







「へー。ここら辺がハヤテくんが普段見てる景色なんだね」

「そう大層なものではありませんよ」

現在ルカはサングラスに帽子にマスクという完全装備である。ルカは夏の気温も合間って、かなり汗だくである。

「…ルカさん。暑くないんですか?」

「むー。暑いよー。暑いけど言ったらさらに暑くなるから言わなかったのにー」

ポカポカとハヤテを叩くルカ。ハヤテはその微笑ましい光景につい笑ってしまった。

「あ!ひっどーい!彼女が暑さで今にも倒れそうだって言うのに!」

「す、すいません…。それより、水分補給は大丈夫ですか?」

「ふっふーん」

心配するハヤテを他所に、ルカは自慢気に何処からともなくポカリスエットを5本も取り出す。

「きちんと用意してあります」

「は、はぁ」

ドヤ顔のルカにハヤテが少しときめいたのは別のお話。
そして、二人が忘れていた現実が浮上する。

バサッ

「「…あ」」

カーカー…

カラスはポカリスエットの一本を加えて飛んでいった。

「あー!こらー!」

「あ、ルカさん!走ると!」

走ると危険。そう言おうとするハヤテだったが、

「うわ!」

「きゃ!?」

ハヤテの足元には何故か野球ボール。ハヤテはそれを踏んづけ転び、目の前のルカを押し倒すような形になってしまった。
本当の危険は自分の元にあった。

「いてて…あ!」

「え?」

転んだ拍子にポカリスエットが全部投げ出されてしまった。
そして、目の前は坂。

「「………」」

もはや確認するまでも無いが、ポカリスエットは全て、本来の役割を果たすこと無く天へと召されて(蒸発して)しまった。






「全く、酷い目に会ったよ」

「ですねー」

だが、これが日常茶飯事である二人は苦笑するで収まっていた。

「さて、次はどこに行く?」

「行くって…。ですが買い物は」

「むー。いいじゃない」

「ですが、今夜の材料もありますし、仕込みの事を考えると…」

「もー!空気読んでよ!バカバカ」

ポカポカと、これまた可愛らしく胸を叩いてくるルカ。
だが、

「わん!」

「きゃあ!」

「うわ!」

いきなりの犬の声に思わずハヤテに抱きつくルカ。

「大丈夫ですか?ルカさん…て、アルマゲドン!?」

「え?知ってる犬?」

「ええ、知り合いの犬…てまさか!」

「(ドキドキ)」

「文ちゃん。ドキドキしてもすでに暴露てしまっているわ」

「「………」」

文とシャルナがハヤテの想像通りにいた。
そして何故か、文はビデオカメラできっちり現場を抑えていた。

「シャルナちゃんシャルナちゃん!見てください!どーてーしゃっきんしつじとちょーにんきあいどるの合びき映像ですよ!これを売れば高値になると文は思うのですが!」

「ええそうね。大スキャンダル間違い無しよ。そして言い方が馬鹿みたいで考えてる事は相変わらずの最低のゲス野郎よ文ちゃん」

((何か暴露てるううう!?))

窮地に陥る二人。

「文はすぐにこの映像をテレビ局に送り付けてくるのでシャルナちゃんは二人の足止めをお願いします!」

「金の為なら何でもやる姿勢は、方向性を間違えなければいいことだけど、間違えると人間の風上にもおけないくず野郎になることをそろそろ覚えてほしいのだけれど」

「それでは行ってくるのです!」

「ああ、待って!」

「心配ご無用です」

文を追いかけようとする二人を静止させるシャルナ。

「どいて!今のを届けられたら」

「大丈夫です。文ちゃんはあれにメモリが入ってない事を知らないので。録画はされてませんよ」

「「…え?」」

理解が追いつかない二人。

「それではお邪魔しました。あと、いつまでもそうしていられると、見ているこっちが恥ずかしいのですが」

「「………!!////////」」

今の今まで抱きついていた二人。







「さ、さっきのは流石に焦ったなー、なんて…」

「で、ですねー」

朱色に染まった頬は未だ熱を帯び、二人の間の空気はピンク色にそまっていた。

「そ、そういえばハヤテくんは今後の目標とか何にするの?」

あからさまなテーマ変え。

「そ、そうですね。とりあえずは、今の生活の安定ですかね。ムラサキノヤカタにはこれからも住むでしょうし」

「…今の生活の安定、か」

ハヤテの答えに思うところがあったのか、ルカの雰囲気は真面目な物となる。

「ねえ、ハヤテくん」

「何ですかルカさん」

「マリアさん、ムラサキノヤカタ出る時に言ってたよね。
『ハヤテくんはルカさんとの関係をはっきりさせておいてください』
て」

「…はい」

「それともう一つ。ハヤテくん、前に私の願い事、何でも一つ、叶えてくれるって薬草したよね」

「はい。命に代えても、と」

「…じゃ、ここでお願い使うね」

「…え?」

「ハヤテくん。ハヤテくんは、私の事をどう思ってるの」

「っ。…それは」

彼女。
その言葉が咄嗟に出ない。
そもそもハヤテは、同人誌勝負でルカの味方をするも、だからと言ってルカとの恋人関係はどこか遠くの事のように感じていた。

綾崎ハヤテに水連時ルカの恋人としての自覚は無い。

だからこそ、答えには迷ってしまう。

「ハヤテくん」

「…はい」

「ハヤテくんの本音でいいの。周りから見たら、とか、約束がどう、とか。そういうのは全て度外視して」

「…僕は」

(主従?恋人?住人?…どれも違う気がする。僕は、彼女を…)

ハヤテはルカを真っ直ぐ見据える。そして、ルカとの記憶を思い出す。

(…ああ、そうか。簡単な事だったんだ。僕は、彼女を)

傷付けるかもしれない。何故なら、今という状況は、今までノンストップで働き続けた彼女の夢なのだから。
それでもハヤテは、命に代えても守ると誓った約束に、答えを出す。

「…親友です」

「…そっか」

ルカは、悲しそうに目を伏せるが、すぐに元気な声を上げる。

「ふっふーん。残念だけどハヤテくん。今の君と私の関係は恋人で無い以上主従なのだよ」

「え、ええ!?」

「だからハヤテくんは私に絶対服従!」

「あ…え…」

「返事!」

「は、はい!」

「ではハヤテくん。主である私からの最初のメッセージだよ。よく覚えておいてね」

「は、はい…」

ハヤテはどんな無茶ぶりがくるのか、心底心配であったが、それも杞憂に終わる。

「諦めないから」

「…え?」

「諦めないから。ハヤテくんのこと」

「……///(カァー)」

段々と赤に染まって行くハヤテ。それを見て、おかしそうに笑うルカ。

「ハヤテくん真っ赤っかー♪」

「ルカさん!そんな大声で変な歌を歌わないでくださいよー!」

「おお!私の歌は高いんだぞ!馬鹿にしていいのかなー?」

「脅さないでください!」

この二人の距離感は、しばらく変わりそうにない。







「「………」」

「「「………」」」

「あらハヤテくん、ルカさん。いいところに」

少々ギャグでは済ませれないレベルでダークサイドに堕ちている失恋少女たち。どうやら歩の負のオーラが伝染してしまったようだ。

「ふふ、ハヤテくん。残念ながらしばらくキスはお預けみたいだよ」

「だ、誰もそんなこと言ってません///」

「したくないの?」

「そ、それは…///」

大胆なルカの発言にノックアウトされるハヤテ。ひとしきりハヤテを弄ったルカは失恋少女たちに告げる。

「ほら!ハヤテくんとはまだ付き合わない事にしたから!みんな元気出して」

「え?それが原因で?」

「気づかなかったんですか?ハヤテくん」

「「「(パァー)」」」

みるみる内に元気を取り戻す三人。

「…そうですよね。僕みたいな借金執事が、ルカさんと釣り合うわけありませんよね」

「(またこの子はそういう勘違いを)」

ハヤテの鈍感は筋金入りだった。

「さ、ハヤテくん」

「…はい!」

ルカの呼びかけに答えるハヤテ。
ルカが望んだ結末では無かったが、今はみんなが笑っている。その事実だけで、今は胸が満たされる思いのルカであった。

「…いつか、振り向かせるんだから」

「何か言いましたかルカさん?」

「ううん。何でも無いよ、ハヤテくん♪」