迷走! 闇鍋劇場!(完結・ひなゆめより再掲) |
- 日時: 2013/06/02 17:42
- 名前: 餅ぬ。
こんばんは、餅ぬ。です。 今作はHNを変更する前の作品で唯一手元に残っていた中編です。 随分と昔に書いたものですが何気にお気に入りだったので、再び止まり木にて投稿させて頂きます。 まるっと丸写しでほとんど修正は加えていませんが、どうしようもない当時のノリをそのままお楽しみ頂けたら何よりです。
長々と前置き失礼しました。それでは、本編です。
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【ああ。もしも、あのとき】
『沈黙』。その言葉は、今の僕たちを指すべくして存在しているのではないか。そんなことを思ってしまうような、この現状。 三千院家の和室に集まる僕とお嬢様、そしていつもの三人組とヒナギクさん、そしてなぜか桂先生。 なかなか面白いメンツがそろっているにも関わらず、僕たちの間に会話はない。あるのは、気まずい空気だけ。 お嬢様は押し黙り、三人組は目をそむけ、桂先生は現実から逃げるため酒を浴びるように飲んでいる。あのヒナギクさんでさえ、下を向いて黙ったままだ。 ……しかし、この沈黙も仕方ないことなのだ。目の前の惨状を見たら、誰だって押し黙ってしまう。 そしてその惨状が、のちにもう一つ恐ろしい災いを起こすということが明白である時点で、沈黙が起こるのは必然的なことなのかもしれない。
ふいにツン、とした刺激臭が僕の鼻をついた。その吐き気を催すほどの臭いに、僕は思わず顔をそらせた。 その臭いに顔をそらせたのは僕だけではないようで、まわりを見渡せば皆顔をその臭いの根源から背けていた。 そしてこの臭いの根源こそ、まさしく僕たちが直面している惨状の種なのだ。 この、時期はずれな鍋がすべての元凶なのだ――。
――もしも、あのときあんなことを言わなければ。 もしも、あのときあんなことをしていなければ。 もしも、あのときあんなものを入れなければ。 もしも、あのときこんな冒険していなければ。 もしも、あのときあの人の暴走を止めていれば。
そんな後悔が今更になって僕を襲ってくる。しかし、それらは今となってはどうすることもできず、僕の頭の中で響くだけ。 頭を抱え、後悔の波を乗り切ろうとする。ふと、顔を上げると、僕の斜め前に座っているヒナギクさんが目に入った。 ヒナギクさんも、僕と同じように頭を抱えている。ヒナギクさんも僕と同じように、後悔の波に襲われているのだ。 当然だろう。なんせヒナギクさんは責任感が人一倍強いわけだし、自分があんな所業を行ってしまったわけなのだから。
「はぁ……」
初めて沈黙の中に響いた音。それはお嬢様のため息だった。 ため息を連続で二回ほどついた後、お嬢様は震える声で小さく呟いた。
「闇鍋なんて、しなければよかったな……」
お嬢様は目の前の異臭を放つ大きな土鍋を見つめる。その瞳には、後悔とそろそろ起こる恐ろしい第二次災害への恐れが浮かんでいた。 屋敷のドアが開かれる音がしたとき、僕たちはきっと恐ろしいものを見ることになるだろう。 日頃優しい聖母を怒らせることほど、恐ろしいことはないのだ。 それはお嬢様や僕は当然知っていることだし、瀬川さんたちやヒナギクさんと先生にも、お嬢様から事細かに恐ろしさが語られている。 だからこそ、こんな重々しい沈黙が生まれてしまっているのだ。
――がちゃり……。 「ナギ〜。お鍋の具、買ってきましたよ〜」
ドアが開かれたと同時に、響いてくる彼女ことマリアさんの声。珍しく友達を呼んで、鍋パーティーを開いているお嬢様を心から慈しむ声。 だが、そんな優しい声も、僕たちには地獄への進行曲にしか聞こえない。 お嬢様が僕の袖を握ってきた。その小さな手は小刻みに震えている。それを包むように、僕はお嬢様の手を握る。 瀬川さんたちもとうとう立ちあがってあわあわとパニックを起こし始めた。 ヒナギクさんは潔く謝ろうと決意を決めているようだ。酔いつぶれている姉の桂先生とは大違いだ。 僕は、こちらに近づいてくるマリアさんの足音を聞きながら、今までに起こったことを思い返していた。
ああ。もしも、あのとき――。
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