Re: Meaning of living 5/15更新+注意文追記 |
- 日時: 2013/05/22 23:00
- 名前: サタン
- 4、もう二度と…
運命だとは思うけど…この人の名前忘れちゃった。 だって、そんなに会話した覚えないし… そこで僕は失礼ながら名前を尋ねてしまった。
「あなたは…えーと……どなたでしたっけ?」 「…だから、私は三千院家の執事長のクラウスだって今朝言っただろうが!」 「あ、そういえば、そうでしたね。 すっかり忘れてました」
そうそう…クラウスだった! あのときはマリアさんと話すのに夢中で記憶が曖昧になってたけど、 そんな影が薄い人もいたよね。 確か。
「何か私の陰口言わなかったか?」 「…は! いえ、何も言ってませんよ!」 「まあいい…それでこれは一体どういう状況なんだ? 綾崎」
クラウスさんが内心ひと安心した僕と水蓮寺さんを振り返った。
「それが…「おい! 何だこの老いぼれは!」
痺れを切らしたらしいヤクザたちが、 僕とクラウスさんの間に割り込んできた。
「私をどなたと心得ておる… 我こそが三千院家、 執事長のこと…蔵臼征史郎だ!」 「…だからどうした。 部外者が口を挟むな」
古臭い自己紹介をしたクラウスさんに対して、 目傷男が余裕のある態度をとる。 肩書きや風貌に物怖じはしていないらしい。 ヤクザをちらりと見たクラウスさんは思い出したように、
「お前たちは確か学館組ですな… 表では慈善事業をしているが、 それはあくまでも表向きの話で、 裏では主に情け無用の債権回収を行なっている、 鬼武者ノ小路系ヤクザ…で正しいですかな?」 「…じいさん、俺たちのこと良く知っているじゃねえか。 こりゃあ、お前さんたちは生きて返す訳にはいかねえな」
銃口を向けて、不気味な笑みを浮かべたヤクザ。 触れてはいけないことを、 どうやらクラウスさんは言ってしまったらしい。
「ええ! さっき彼女の頼みは!?」 「これを聞いてしまった以上、 その女もその老いぼれ同様に死んでもらわないとな… だが、安心しろ君たちの臓器で借金は返させてもらう」 「そ、そんな…」
思わず僕は絶句してしまった。 寄り添っている水蓮寺さんが体を小刻みに震わせていた。 怯えているみたいだ。 彼がここに来てこんなこと言わなければ、 彼女は助かったかもしれないのに… だが、執事服を身にまとった彼は、
「彼女と後に下がりなさい」
こっそり小さな声で僕に言った。 口調から察するに何か策があるらしい。 そこで僕はクラウスさんの言う通り、 僕は水蓮寺さんを後に庇うような態勢を瞬間的に整えた。 そして、クラウスさんはヤクザの態度に、
「最近の若い奴らは、 鉄砲を向ければ勝てるつもりか…」 「ああ、お前みたいな老いぼれに何ができる!」
呆れたようにそんなことを言った。 虚勢を張っていると思っているのか、 余裕の表情のヤクザだったが、
「お近づきの印としてこれを差し上げましょう」 「…え? うわあああ! 何だこれは… 何も見えねえ!?」
何かクラウスさんが転がしたと思ったら、 ヤクザがいる場所を強い光が覆った。 ヤクザたちが騒いでいるパニックに陥り始めたらしい。 光を起こした張本人は慌てふためいていた僕や彼女を誘導するように、
「今の隙に私の車に乗るんだ! 早く!」 「ああ、はい!」
どうやらヤクザたちが光で怯んでいる隙に逃走するらしい。 僕はクラウスさんが指さした車に飛び乗った。 反対のドアから彼女も続く。 僕たちが乗ったのを見定めると、
「発車するぞ!」
掛け声を発するとエンジンをかけて、 瞬く間に車のハンドルを切る。 こうして僕と水蓮寺さんは死の淵から脱出することができた。 でも…僕は、どの道…
〜 〜 〜 〜 〜
車窓から雪がちらつき始めて、 クリスマス・イブを飾る夕方。
ここで沈黙していた水蓮寺さんがようやく口を開く。
「…あ、ありがとうございました! この御恩は一生忘れません!」 「当然のことをしたまでです。 それで君たちはどうして学館組に命取られそうになってたのかね?」
僕の気持ちを代弁してくれた彼女。 勢い良くそう言ったものの、 少し後半の方は涙声が入り交じっていた。 そこで僕は彼女の代わりに状況説明をすることにした。
「…なるほど。 今朝の仕事の後にそんなことが… しかも、両親に借金返済ために売られるとはな」 「ははは… 僕も驚きでしたよ」
決して、人事じゃないのに苦笑する僕。 今朝からの幸せな出来事からどん底まで落とされかけたのだから、 もう笑うしかないほどの状況の変化だ。
「…で彼女の方は?」 「彼女は…ああああああああああ! 」
今思い出した! 水蓮寺さんはアイドルのオーディション受けるって言ってたっけ! 時間の猶予ないんじゃ…
「水蓮寺さん! オーディションの方の時間って大丈夫なんでしょうか?」 「もう間に合わないわ。午後四時からだもん… でも命が助かっただけでも、私は十分よ」
車のデジタル時計は午後四時を指している。 確かに彼女の言う通り間に合わないだろう… だが、さっきは逃げられたが、 ヤクザに命を狙われていることには変わりない。 つまり彼女は借金を払える保証があるアイドルにならない限り、 例え僕がそばにいて守るにしても、 水蓮寺さんの命の保障なんてできる訳がない。 あの規模のヤクザが動いている限り…
「クラウスさん、彼女を会場まで送って差し上げてください」 「それは良いが、 もしかして君が受けたいオーディションって新宿で開催されたりしないですかな?」 「え、そうですけど…なぜそのことをご存知で?」 「実はそこで開催されるオーディションは三千院傘下の芸能会社主催で、 私も仕事で時々行くことがあるのだよ」
さすが三千院家…! そんな会社まで傘下にあるとはな。 それなら受けられるかも…
「それなら尚更ですよ! 早くそこに向かってください」 「そうだな…融通が効くかは分からんが、行ってみる価値はあるな」
トントン拍子に話は進んで行って、そこまで車で向かうことになった。 クラウスさんとの会話が一段落すると、
「あなた…本当にありがとうね。 今日会ったばかりなのにここまで私のために色々としてくれて…」 「いえいえ、頑張ってくださいね」 「うん、ありがとう!頑張るよ!」
彼女が生き生きした笑顔を浮かべて、 僕に向かって決意表明をしたが、 車窓に見覚えがある公園が映った。 そのとき、僕は思い出してしまった。 あの夜のことを。 僕が一緒にいたばかりに傷つけてしまった少女のことを。 このとき、もう僕は同じ過ちを繰り返したくないと思っていたばかりに、 言ってしまった。 離別の言葉を。
「すみません、ここで僕だけ降ろしてもらえないでしょうか?」 「は、それはどういう意味かね?」
突然の言葉に驚きを隠せないクラウスさん、 無論、水蓮寺さんも唖然としていた。
「僕は借金返す方法はないですし、 もし、彼女と一緒にオーディションに行ったら、 僕が持っている疫病神が彼女のチャンスを潰しかねないです」 「…そうか、勝手にするがいい」
クラウスさんはそれだけ言うと黙ってドアを開閉させた。 どうやら僕に何を言っても説得できないことを分かっているみたいだ。 僕が降りようとすると、
「何で急に別れるだなんて言うの! あなたがいたから私は今ここにいるのに…」 「…そんな顔されないでください。 自分がいると回りが不幸になることを分かりきっています… だから、そうなる前に自ら引くだけのことです」
彼女の言っていること間違いではないと思う。 僕があの倉庫にいなければ、 彼女は助かってなかったかもしれない。 一緒に行って彼女の応援だけでもしてあげたいとも思っている。 でも彼女のチャンスを奪いたくない。 自分といる人は不幸になってしまう。 もう、あれっきりにしたい。 女の子を傷つけて悲しませることだけは…
「で、でも! あなたの借金なら私がアイドルになって、 私の借金と一緒に返済してあげてもいいのよ! 命の恩人の頼みなら何でも…」 「水蓮寺さん、あなたの気持ちはありがたく受け取らせて頂きます。 …ですが、あなたにそこまで負担をかける訳にはいきません… オーディション頑張ってください…僕はここでさよならです」 「…行かないで! まだ聞きたいことも知りたいこともいっぱい…」
彼女がそこまで言ってくれたことは、 正直嬉しかったし、それに甘えたかった。 だが、彼女の借金を増やす訳にはいかない。 僕なんかのために。 水蓮寺さんに背を向けて僕は公園の方へ歩き出した。 背後から悲痛な叫び声に耳を塞ぎつつも、 彼女の成功を願っていた。 この場では自分の行いは正しいと思っていたが、 それが彼女に辛い思いをさせたのを、 僕は自覚できなかった。
続く
現段階ではルカの心情描写が分かり辛いと思いますが、 彼女サイドのお話をやりたいと考えておりますので、 それまで暫しお待ちください。
そしてハヤテとルカを結果的別れさせてしまった、過去のトラウマの少女。 もうお分かりですよね?
それでは、また。
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