Re: Meaning of living (5/7更新) |
- 日時: 2013/05/15 23:32
- 名前: サタン
- 3、星に誇れる出会い
「大丈夫ですか! しっかりして下さい!」
彼女をさすりながら呼びかけた。 澄んだ水の色のショートヘアーが印象的な少女だ。
「うん…」
目をゆっくり開けて、こちらを向いた。 一時心配はしたが、彼女はどうやら無事のようである。
「よかった。 目を覚まさないかと思っていましたよ…」 「…あなたは!? まさか…取り立て屋! …だから言ってるじゃない! 私はびた一文もお金持ってないって!」 「…え」
ああ…初対面から僕はヤクザの一味にされてしまった。 まあ、それはさておき…彼女のこの反応もしかしたら、 僕同様な目に遭ってここに連れて来られのかもな…
「それに私はここから出ないと借金を返しようがないんだよ… それを…」 「あの…」
言い逃れというよりも、何かを訴えってくる今の彼女。 そんな彼女に僕は言葉をつまらせてしまった。 彼女の気持ちはよくわからない。 正直なところ。 …でも僕がこのままヤクザだって勘違いされっぱなしは良くない。
「僕は黒服の仲間ではありませんよ。 ご安心ください。 あなたも両親借金を押し付けられたんですか?」
誤解を解く以前に困った女の子が目の前にいるのに、 それをただ見過ごすことなんて、僕にはできない…!
「そうなのね…疑ってごめんなさい… 両親が騙され続けて借金大きくしちゃったから、 嫌でも人をむやみに信じられなくなっちゃって…」
人が信じられなくなるなんて、悲しい話だな。 昔から信じてない両親がいた僕が言えるセリフじゃないが。 きっとそんな騙され続けるほど、 純真な両親の下で育った彼女は本当はとても素直な人なんだろうな。 そこで僕は、
「いえいえ、そういう事情があるなら仕方ないですよ。 気にしないでください」
囚われの身で苦渋の心境の中、 僕は今できるだけの笑顔を作った。 彼女が何か安心感を抱いたかのように、
「大丈夫…! あなたは今から信じるから…ね♪」
曇りがちだった彼女の表情が少し晴れやかなものに変わっていた。 すっかり、僕のことも信じてくれたみたいだ。 だが、この和やかな場に水を差すかのように、 男の話し声が飛んできた。
「おい、準備はまだか」 「あと十分くらいです」 「分かってるだろうな。 先に女の方を連れ出して、男の方はここで臓器を回収する」 「へい! 了解しました」
子分だと思われる男の方が生きのいい返事をしていた。 僕は息を潜めて男たちの会話を聞き入っていた。 会話が終わると僕は彼女の方を向き直ったが、彼女は小刻みに震えていた。
「ど、どうしよう… このままだと…私たち…」
男の言葉から察するに僕はここで殺されるのは確実。 彼女の方は連れ出された後、生き地獄に放り込まれるに違いない。 僕は一瞬の苦しみで終わるだろうが、彼女はそうはいかないだろう。 おまけにさっき彼女は”それに私はここから出ないと借金を返しようがないんだよ… それを…” と言っていた。 考えろ…考えるんだ…! 何かあるはずだ…ここからの脱出方法が…!
「ねえ…さっきから気になっているんだけど…少しいい?」 「…どうかしましたか?」 「あっちの方にある階段から上がって、脱出できないかしら」 「階段…!?」
彼女が指を指している先には、 なぜ今まで気がつかなかったのかと、 思うくらい分かりやすい場所に上り階段が存在していた。 捕まってたときの恐怖心のせいで気づけなくなっていたみたいだ。 案外あのヤクザたちも抜けているのかもしれない。
「さて、ヤクザが来ないうちに行きましょうか。 …ってどうしましたか?」 「いいえ、何でもないわ…イタタ…」 「何でもなくないですよ! 足を怪我しているじゃないですか!」
足を引きずって僕に付いてきた彼女は顔を歪めながらも、 虚勢を張っていた。 だが、足の傷の感じだと軽傷ではないようだ。
「大丈夫よ! 私は将来アイドルになる女…これくらいことで…う…!」 「…時間がありません。 少し失礼しますね」
今は時を一刻と争う事態なので、 とりあえず、彼女の発言はスルーして、 僕は問答無用に彼女の怪我をしている箇所にハンカチを巻いた。 応急処置だけど、少しは良くなったかな。
「…ありがとう」 「どういたしまして。 では、行きましょうか」 「え、これは…?」
お礼を言いながら、立ち上がる彼女にそっと手を添える。 僕の行動の意図に気が付かない彼女は戸惑いの表情を浮かべていた。
「僕の手につかまって上ってください。 無理はいけませんよ」 「うん…」
華奢な彼女の手が僕に身を委ねるように握る。 僕は優しくされど、離さないという強い意志で握り返す。 こんな僕を信じてくれる彼女を必ず助けるという堅い決意とともに。
「外は安全みたいです。 早くここから出ましょう」 「そうね」
上った先の部屋には昇降口があって、奇跡的にも鍵が掛かってなかった。 一度外に出て、ヤクザがいないことを確認してから、 彼女を連れ出した。 屋外は今の僕の心情のように晴れているわけでもないが、けっして雨でもない気候だった。
「うわ、寒いわね」 「そうですね。 この分だと夜辺り雪になるかもしれませんね」
…とまあ、僕たちのんきな会話をしつつも、階段をできるだけ早く降りていた。 少し順調過ぎるのが怖いなあ… 降り立った場所は青いスカイブルーで染まった海が一望できる港のようだった。 さて、何処まで逃げようかな? あ、そういえばまだ名乗ってなかったけ…今日二回目だな。 そんなこと思っていたが、彼女の方から、
「こんなによくしてもらってるのにまだ名前言ってなかったわ。 私の名前は水蓮寺ルカよ」
彼女から名前を教えてくれた。 そして僕も当然のように名前を名乗ろうとした。
「よろしくお願いします。 水蓮寺さん。 僕の名前は…「よく脱出できたな。 お前たち…褒めてやるぞ」
まさか、この声は…!? 僕と水蓮寺さんも後を振り返ると、 銃を片手に持った黒服の集団が目に入ってしまった。
「まあ、少し爪が甘かったようだがな… 手を上げろ! おとなしくこっちに来い!」
ドスの効いた声が辺りに響いた。 それは僕や水蓮寺さんを脅かすのには、十分過ぎた。 水蓮寺さんが諦めたように表情を歪ませると、 絶望への一歩踏み出そうとした。 でも、そんなことさせやしない。 絶対に。
「ちょっと待ってください! 言いたいことがあるんです! 聞いてください!」 「うるさい! 黙って前に出ろって言っているのが聞こえないのか!?」 「いいから…聞けって言っているだろう!」 「…ふん、度胸ある兄ちゃんだな…良かろう言ってみろ」
口調が荒んでいつのまにかタメ口になっていた僕。 それで少しは気持ちが伝わったのか、目に傷痕がある男が許可をくれた。
「何の方法もない僕と違って、彼女はアイドルになって借金を返すって方法があるんですよ! せめて、芸能会社のオーディションを受けさせてやってください」
僕は彼女が今まで言っていたことから一つの答えを出して、 この男たちを説得しようとした。 伝わってくれ…あの男たちだって人間のはずだ。 無駄に人の辛いところなんて見たくない…と思う。 正しく伝わってさえいれば、きっと届く。
「…そういえば、その女は借金の大半がその手の物だったな… だったら、仕方あるまいか…」 「え、じゃあ…」
僕が少し期待感を寄せた。 そこに…一台の車が入ってきた。 なぜだか、その車を見た途端、少し落ち着いた気持ちになった。
「誰だ…? こんなときに」
ヤクザの一人がぼそっと呟くと、 車は僕らの近くに停止した。 待つ程なく運転席から人が出てきた。
「まさか、趣味のドライブをしている最中に君にまた会うとは思わなかった」 「あ、あなたは…!?」
その人を見て久しぶりの再会って訳じゃないのに、 物凄く新鮮な感じがした。 まさかこんな場所で巡り会うとは思わなかった…! これが運命か。
続く
さて、出て来ましたね原作では、すっかりお馴染みの水蓮寺ルカ。 そして、ハヤテが最後に再会した人物とは? 次回に続きます。
帝さん、開拓期さん、コメントありがとうございました。 引き続き頑張らさせて頂きます。
それでは、また。
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