Re: Meaning of living |
- 日時: 2013/04/30 06:21
- 名前: サタン
- 1、 Unexpected happiness
生きるとは一体何なのか。 今からちょうど十年前に赤服を着て白い髭を生やしたおじさんに毒舌を吐かれて以来、僕は自分の生きている意味が分からなくなっているのだ。
「クズ両親にこき使われるだけのお前の人生など生きていく意味が無いに等しい」
その人の言う通り僕の両親は揃って働かないダメ人間の鏡である。 それだけならまだしも、親は働きもしないばかりか僕が稼いだ”お金”のみに興味を示す。 僕自身には欠片も興味を向けない。 親という依然に、人間なのかと疑問と憤りを覚えているくらいの息子への関心のなさだ。 でも僕は良い転機に巡り合える事を微かながら信じていた。 今日までは…!
「さて、今日もバイト頑張るか〜」
僕は太陽が昇り始めた頃に目を覚ました。 起き上がると朝の行事を手早く済ましてアパートの階段を駆け下りる。 今日はバイト先に出向く前に昨日頼まれていた仕事を遂行しなくてはならない。 荷台にお届け物を載せて自転車を走らせた。
「ふー 今日は一段と冷え込むな〜」
自転車を漕ぎながら僕の目に映る景色からは水たまりが凍結してる箇所があちこち見受けられて、冬らしさを感じた。 凍結路面に滑らないように十分注意しながら自転車を進めていると、僕の視界を巨大な建造物が占領した。 日本の大富豪の代表と呼ばれている三千院家の敷地前に到着した。 ここが目的地だ。
「どちら様ですか?」
インターホンを押すと、女性の声が聞こえてきた。 声色からして若そうな感じだ。
「自転車便の綾崎と申します。 三千院家宛に書類をお届けに参りました」 「それはご苦労さまです。 少々お待ちください」
そこで女性の声が途切れた後、こんな大きなお屋敷なのだから、応対人がここに来るまで少しは時間はかかるだろう…そんな少しの覚悟をしたが、僕の考えは甘かった。 あの会話から三十分経ったが、一向に応対人が現れなかった。
この家の人間はどれぐらい時間にルーズなのか! くそ、こっちも暇じゃないのに 僕は心で悪態をつきながら、再びインターホンを押そうとした。 その時になって、ようやく門が開く金属音が響いてきた。
少し文句を言ってやろう…! 僕は散々待たされた身なので、それ相応の対処をしようと決心した。 お、門が開き終わったみたいだ…よし!
「全く、少し待たせすg…!?」 「長らくお待たせしてしまって、申し訳ありませんでした」
僕の前に現れた人物は紺のメイド服を着ており、茶色の髪を結っていたとても清楚な女性であった。 な、何!? 三千院家には名家に恥じない、こんなに綺麗なメイドさんがいるんだ! これは男として、寛大に対応しなければ!
「えっと? 本当にすみません…何せ屋敷からここまでh」 「いえ、全然平気です。 ちょうど耐寒練習したいと思ってましたから♪」 「はい?」
うんうん! バイトもたまには良い事あるな〜♪ こんなキレーな人と会話できるなんて光栄極まりない! …ってやば、仕事しなきゃ、仕事! それに、彼女から何やら痛々しい視線を感じるしね…
「…いえ、なんでもありません。 こちらがお届け物になります。 伝票にサインをお願いします」 「…でしたね! はいはい!」
その美人なメイドさんは手慣れた手つきで伝票にサインした。 このサイン持って帰っていいかな〜♪ …駄目だよね。 仕事先に受領証として提出するもん…そもそも。
「はい、どうぞ。 お手数おかけしました」 「いえいえ、では、これが書類になります」
僕は自転車の荷台から書類を運んできて、メイドさんの足元に置いた。
「あれ? 案外、書類の量多いですね」 「そうですね。 本宅の帝様からと明記されてますよ」 「おじいさまったら、また自作の小説を送ってきたんですね…」 「え?」
これって書類じゃなくて小説なの!? 封筒には書類って書かれてるんだぞ…? こんな厳重な梱包が施されてるのに…金持ちは良く分からない所に拘るな。
「… ありがとうございました。 そうですわ! 待たせたお詫びにお茶でも飲んでいきませんか?」 「ええ! 良いんですか? 僕仕事中なんですけど…」 「息抜きも仕事の内ですよ。 根を詰めすぎてもいけませんわ♪」
こ、この人…今まで会ったどんな人よりも優しいかも… 僕なんかに気を遣ってもらって…! うう… 僕は目から大粒の結晶が流れ落ちたと同時にしゃがみ込んでしまった。
「どうしたんですか!? 私、何か気に障る事でも申しましたか?」 「いや、嬉しいんですよ。 純粋に! こんなに僕の事を思ってくれる人が久しぶりでして…!」
突然の僕の異変に面を食らったのか、彼女は口調を低めて尋ねてきた。 くそ、涙が止まらない…でも! 男ならしゃきっとするんだ! しゃきっと!
「そろそろ屋敷に行きませんか? ここ寒いですし… 体が暖まれば自然と元気になれると思いますよ」 「…そうですね!行きましょうか! ご心配お掛けしました!」
メイドさんの温かい言葉に放心泣きして、スッキリしたのか、僕は本来以上に堂々とした態度でそう答えた。 三千院家のメイドさんが荷物を持とうとした時、僕はその動作を止めるように言う。
「その荷物は屋敷まで僕が持ちましょう。 さっきあなたがここに来るまでの時間を考慮すると、けっこう長距離のようですからね」 「え、良いんですか? 別に私は大丈夫ですよ」
案の定、僕の提案を躊躇気味に返してきたメイドさん。 でも僕は目の前の人にかけてもらった優しさに対して、少しでも恩返しがしたく追い打ちをかける。
「いえ、お茶をごちそうして下さるのに、僕が何もしない訳にいきませんから、せめてものお礼です…それに」 「それに?」 「あなたみたいな綺麗な人にこんな力仕事させたくありませんので…これぐらい僕がやります!」
少しお世辞染みた言い方かな? しかし、これは僕の本音だもんね! 綺麗な人を綺麗と言って何が悪い!
「!?…そ、それではお願いしますわ! では、ご案内します! こちらです」 「は、はい」
急にそっぽ向いてどうしたんだろうか? 僕が何か空気の読めない発言でもしてしまったのかな… 僕ってデリカシーない奴だなあ、はあ… その後、僕と彼女の間に気まずい空気が流れて、会話することはなかった。 二十分くらい歩いた時だろうか、僕の視界にふと現れたものがあった。 それは本来なら花壇と呼ぶのだろうが、それは花園と言っても過言ではない出来栄えであった。
「うわ! 綺麗ですね! …この花、シクラメンですよね?」 「あら、良くご存知で♪ 苦労して育てているので、そう言われますと嬉しいですわ♪」
花の植え方も見事なものだった。 シクラメンの植え方のバランス、花が育つ為の個々のスペース等、どれをとっても熟練者の世話したと手に取るように分かるものであった。 まあ、僕がこんな事知ってるのは、昔花屋でバイトしていた時期があったからだが。
「あなたが育てられたんですか!? 素晴らしいですね!」 「ええ、そうです。 ありがとうございます。 あら、あのシクラメンだけどうしたのでしょうか」
彼女がそう呟くと花壇の方に駆け寄って行った。 僕もすぐに後を追うと、メイドさんの視線の先に一輪だけ枯れているシクラメンがあった。
「枯れ方から見ますと、植え方がまずかったのでしょうね…」 「そうかもしれませんね。 球根を植える深さが良くなかったって感じですね」
僕の知識では、シクラメンは9月が一番球根を植えるのに、最適な時期だそうだ。 それ以外のシクラメンは全くそんな事がないのにどうしてだろうか? 単なる些細なミスかな?
「ですね …まあ、あの時期はちょうど悩ましい時期でしたから、仕方ない事なのかもしれませんね…」
僕にそう答えながら、彼女の表情が一瞬だけ沈んだような気がした。 僕は黙って頷いた。 一輪の枯れたシクラメンを見つめて…育てた人の気持ちを汲み取ろうとしながら。
〜 〜 〜 〜 〜
「うわー すごく大きなお屋敷ですね!」 「そうでもないですよ。 本宅に比べれば、けっこう小さい屋敷ですよ」
この屋敷で小さいって ! じゃあ、本宅はもう何処かの国のお城レベルなのか!? 僕が目の前の建造物に圧倒されていると、後ろから何やら気配を感じる。
「マリアよ。 何なんなのだこの幸薄気な少年は!」
甲高い男性の声が聞こえた。 僕の背後に白髪のおじさんがいた。 なぜか、この人から感じる風格から影が薄いような印象を受けた。 マリア…? このメイドさんマリアって言うんだ…あの聖母マリアと同名なんだな。 容姿に違わない名前だ。
「あら、クラウスさん帰ってたんですか?」 「… 昨日の夜には戻ってたぞ。 知らなかったのか?」 「そうだったんですか。 昨日はナギと一緒に早く寝てしまったので、気づきませんでしたわ♪」
何か、身内同士の会話が始まって僕がフェードアウトしてるな。 そういえば、僕まだ名乗ってなかったけ。
「な、なら、仕方がないがな! でも少しは上司に気を配ってもらわないと困りますな」 「以後気をつけます♪ それで、この人の事なんですが…」
マリアさんが事情を説明するとクラウスと呼ばれた人も納得してくれた。
「なるほど、なら、早くこの少年を屋敷に通しなさい。 だが、その前に一応名を聞いておこう」 「僕は綾崎ハヤテと申します」 「それでは改めて…綾崎ハヤテ君! こちらへどうぞ」
そう言ってマリアさんは僕を屋敷へ招き入れてくれた。
「ところで綾崎よ… 私はけっして存在が薄くなどない! 私はここの三千院家に長年務めている執事長だ!」
うん? 何かあの影薄さんが何か言ってる気がするけど扉越しだと良く聞こえないなあ。 …ま、いっか。 それにしてもこの扉地味に防音効果高いな。 屋敷内に入った僕は中の造りに圧倒されてしまった。 これが世界有数の大富豪である三千院家の財力か! そのまま僕は呆然と屋敷の内観を眺めながら客間に通された。
「では、紅茶を淹れて来ますので、ソファーでかけてお待ちくださいね」 「分かりました。 色々、ありがとうございます」
僕が返事をするとマリアさんはそのまま出て行った。 うーん、それにしても凄いなあ… あそこに掛かってる絵画なんてゴッ◯のア◯リスだ!? ニューヨーク最大級のあの美術館にあるはずの絵画がここにあるなんて、相当な金持ちなんだな三千院家って! しかし、僕はある事が屋敷に入ってからずっと気になっていて、仕方がなかった。 それは…
この部屋一見してみるとすごく整ってるように見えるんだけど、けっこう隅のほうとか、ホコリちらほらある! 僕はこう見えても清掃屋で長年バイトしていた経験があり、当時はそれで両親の酒代を稼いでいた。 だから、掃除にはかなりうるさい口である。 その事で僕は落ち着かなくなり、辺りをキョロキョロすると端の方に掃除用具の一式がポツンと置かれていた。
これは僕にここを掃除しろという神からの啓示なのか。 でも、他人の部屋を勝手に掃除するわけには…でもやりたい…どうする こう自分に言い聞かせて必死に悩んだ。 悩み…悩んだ末…決断した。 数分後、ドアが開いてマリアさんが紅茶とそれを淹れる道具を運んできた。
「ハヤテ君、お待たせしました。 …あら?」 「あ、マリアさん。 すみません…じっとしてるの苦手でして、この部屋を勝手に掃除してしまいました」
結局やっちゃったよ。 あははは… マリアさんが面を食らったように立ちすくんでる。 やっぱり、掃除とはいえ、好き放題やったのはまずかったなあ。 謝らなきゃな。
「ハヤテ君、あなた…すばr」 「すみませんでした…! ホコリが少々あったとはいえ、掃除を勝手にやってしまって!」
僕は膝をつき反省の意を表した。 せめてマリアさんから注意される前に自分から謝った。 だが、この後のマリアさんの対応は僕の想像違っていた。
「いえ、ハヤテ君が謝る必要なんてありませんよ。 さっきあんな事頼んだ後に、掃除までして頂いて…その上にこの部屋の綺麗さ…文句の付け所なんてありませんよ。 逆に私がお礼をしなければなりません」 「え…し、しかし」 「しかしもかかしもありません。 と・に・か・く今度は私がうーーんとお礼しますので、堪能して下さいね♪」
床に座り込んでいる僕に対してマリアさんは僕に目線を合わせると口元をほころばせて微笑んだ。 それからしばらく彼女に見惚れしまっていた僕がいた。 すぐにソファーに戻されしまったが、それから少しのティータイムもいつもの大変な生活を忘れさせてくれるほどの幸福な時間だった。
「お茶、ごちそうさまでした」 「いえいえ、こちらこそありがとうございました」
外は日当たりが良くなっていて、少し寒さが弱まっていた。 門まで見送りに来てくれたマリアさんに最後の挨拶をした。 そして、僕がこの場から去ろうとした…瞬間。
「ちょっと良いですか? ハヤテ君」 「どうかしましたか? マリアさん」
真剣な眼差しで僕を見つめるマリアさん。 それから僕と彼女の間に沈黙が続く。
「ハヤテ君、あなたなら……を変えられるかもしれません! だから…!」
マリアさんは言いにくげに表情を強張らせてそう告げた。 小声ではあったが、何か確信しているような雰囲気を出していた。 肝心な所が聞こえないが…僕が”何か”を変えられるのか?
「マリアさん、肝心な所が聞こえなかったので、もう一度お願いします」 「…いえ、やっぱりあなたにこんな事頼むわけにはいきませんので…今のは聞かなかった事にして下さい…」
ところがマリアさんは再び同じ事を言わずに謝ってきたのである。 …が、本当は言いたくて仕方ないようにも見えたが、それを必死で我慢するマリアさんの姿に僕は詮索する心を握り拳をグッと握りしめてこらえた。
「あ、そうなんですか。 …では、僕はバイトがありますのでこれで」 「引き止めてすみませんね。 良かったら、また遊びに来て下さいね」 「え、良いんですか?」 「あなたなら大歓迎ですよ♪」
別れる直前に彼女が言った言葉に僕はほんのり暖かなモノを感じていた。 また行きたいなあ…マリアさんの笑顔を見てそんな名残惜しい気持ちを心で呟きながら、僕は三千院家を後にしたのだった。 僕はその時浮かれていて、忘れていた。 幸せな後には不幸が待っている― そんな僕の日常を。
続く
一話はいかがだったでしょうか? 原作と違って早い段階でマリアと出会う展開でした。(ついでにクラウスも)
これが後々重要になってきます。
次回もそんな風に原作の展開を大きく逸脱予定です♪
二話目は例の如くハヤテに不幸が振りかかります。
次回の更新はなるべく早くしたいのですが、恐らく一ヶ月以内にできれば良い方だと思います。
では、また。
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