[リストへもどる]
一括表示
タイトル第11回お題:衣替え (2008/6/2〜6/29)
記事No77
投稿日: 2008/06/02(Mon) 01:53
投稿者双剣士
参照先http://soukensi.net/ss/
お題SSに取り組む前に、以下のルール説明ページに必ず目を通してください。
http://soukensi.net/odai/hayate/wforum.cgi?no=1&reno=no&oya=1&mode=msgview&page=0

なにか疑問などがありましたら、以下の質問ツリーをご覧ください。
そして回答が見つからなければ、質問事項を書き込んでください。
http://soukensi.net/odai/hayate/wforum.cgi?mode=allread&no=2&page=0

------------------------------------------------------------------

今回のテーマは「衣替え」。冬服から夏服への変更、年齢を経るごとに
移り変わっていく洋服の趣味、なんらかのイベントに参加する際の晴れ姿
……などなど、衣装に関わる物語を投稿してください。

【条件1】
元ネタは「ハヤテのごとく!」に限定します。
オリジナルキャラは、物語の主役やキーパーソンにならないレベルでのみ
登場可能とします。

【条件2】
えっちなのは禁止です。

タイトルメタモルフォーゼ
記事No82
投稿日: 2008/06/28(Sat) 07:09
投稿者双剣士
参照先http://soukensi.net/ss/
 この物語は鬱っぽい表現を多く含みます。読んでて気分の悪くなった方は、即座にブラウザを閉じてください。

---------------------------------------------------------------------

 人類はみな平等だという。人間の命は地球より重いなんて言う人もいる。でもそんなの嘘っぱちだ。
ことさらに連呼し強調しなきゃいけないってこと自体が、その言葉が絵空事である何よりの証拠じゃないか。
 人間は平等なんかじゃない。生まれながらにして才能や美貌や幸運に恵まれた人は確かにいる。知恵や努力に
よって高みへと登りつめた人もいる。だけどその反面、何の取り柄もないどころか存在自体が無意味な人間もいる。
すごい人たちがステージで華やかに脚光を浴びているとき、それを見つめている聴衆の足元で無意識のうちに
踏みつぶされている蟻や石ころのような、決定的に存在価値のない人間。そこに居ようが居まいが誰からも注意を
払われず、その場の空気を1mgたりとも変えることのない透明な影を持つ人間。いっそ有害で反社会的なことでも
しない限り、誰からも関心を持ってもらえないまま無益な一生を終えるしかない、水と酸素と食物を無駄に消費
し続けるだけのハタ迷惑な有機体。
 この私が、そうだ。


 思えば小さい頃から、私は可愛げのない子供だった。
 仲のいい友達を作ったり他愛のないことで笑いあうのが子供の頃から苦手だった。クラス替えの直後には
話しかけてくれるクラスメートもいたけれど、それも最初のうちだけ。話しかけられても気の利いた返事なんて
できないし、こちらから話しかけようにも何を話したらいいか分からない。まごまごしてるうちにクラスメートは
他の子とのおしゃべりに向かってしまって、頭の中をぐるぐる回っていた返事の言葉は行き場をなくして消えて
しまう。
 そんなことを1週間も繰り返しているうち、クラスの仲良しグループが次第に固まってくる。グループから
あふれた子たちはどうにか居場所を作ろうと焦りの色を浮かべ、ときにはあふれた者同士で新しいグループを作る。
私の周囲で繰り広げられるいつもの光景だけど、いつだって私自身は傍観者に過ぎなかった。友達のいない寂しさ
よりも、友達を作ろうとして失敗して傷つくほうを恐れる、私はそんなタイプの子だった。
 やがて誰も味方のいない私には、学級委員長とかゴミ捨て役のように皆が嫌がり押し付けあうような役目ばかり
回ってくるようになる。拗ねたところで誰も同情なんてしてくれないから真面目にこなしていると、先生からは
大人しい優等生として誉められる。それによってますますクラスメートとの溝が広がる。お昼休みや放課後に
誰ともおしゃべりしない孤高の優等生。前のクラスの子の顔と名前なんて進級したらすぐ忘れてしまう、
その程度の繋がりしか築いてこなかった私の学生時代。
 幸か不幸か、一人娘の私には時間とお金だけはあった。寄り道せずに自宅に帰った私はアニメとぬいぐるみで
心の隙間を埋めた。いつしか私の寝室は大小のぬいぐるみで埋め尽くされ、脳みそには流行歌や年頃らしい
言い回しの代わりにアニメや本から得たヲタクっぽい台詞ばかりが詰め込まれていた。寂しいという感情なんて
随分昔に擦り切れてしまった。これが私の暮らし方、手の届かないものに嫉妬するよりは手に入るものを
思いっきり楽しもう……えぇ、そんな風に考えていた時期が、私にもありました。


 『人』という漢字は2人が支えあってる様子から作られた文字だと国語の授業で教わった。『人間』とは
人と人の間で生きるという意味なんだと社会の授業でも言っていた。そしてそんな話をする先生たちは
決まって『だから友達は大切にしなさい』と得意そうな表情で教え諭すのだった。
 でも私はそういう説教を聞くのが苦痛だった。友達の作れないお前は人間未満だ、皆が普通に出来ること
すら出来ない落伍者なんだと言われてる気がしてならなかった。人並みのことができない自分が友達を作ろうと
したって相手の足を引っ張るだけ、迷惑がられるくらいなら無視され放っとかれてる現状のほうがマシ。
どんどん自己卑下を強めていった私はますます自分1人で出来る趣味に没頭し、一層クラスメートとの距離を
広げていった。
 いじめとか対話拒否とか、そういう分かりやすい周囲との軋轢があれば先生や親とかに相談もできたかも
しれない。しかし当時の私に対する周囲の反応は『空気扱い』だった。存在を否定はしないが認識もしない。
必要な時は利用もするけれど普段はそこに居ないかのように振舞う。要は道端に転がってる石ころと同じだった。
嫌われる価値すら自分にはないのかと落ち込んだりしたこともあったけど、話しても楽しいどころか雰囲気を
悪くするだけだというのは自分でも自覚してることだったから文句は言えなかった。優等生という肩書きから
学級委員や生徒会役員をしたこともあるけれど、そんなものが個性にも自慢にもならないことは私自身が承知していた。
 悪いのは周囲でも社会でもなく自分自身。どんなクラスに入っても私を取り巻く環境に変化がないのは、
私が無意識にそうなるよう仕向けているから。妙に聡(さと)いところのあった私はそう心の中で結論付けて、
悪い方向へと向かう思考を断ち切った。だけど自分から変わっていこうという心境にはなれなかった。
どうすればいいか分からないというのもあるし、せっかく私抜きで安定し楽しくやってる人たちに横やりを
入れるのも悪いと思ったし……なにより自分から動いても周囲に波風ひとつ立たないという現実に直面するのが
怖かった。そんな残酷な事実に立ち向かうくらいなら二次元の世界に没頭していたほうが気楽だと本気で考えていた。
あぁ全く、認めたくはないものだな、若さ故の過ちというものを。


 そんな生活に転機が訪れたのは、ほんの数日前のことだった。友達がいなくたってお金さえあれば成人するまで
周囲に迷惑をかけずに生きていけると思っていたのに、その前提が足元から崩れてしまう出来事。当然ながら
名門私立校になんて通っていられなくなる。それどころか放っておけば家族3人で餓え死にするのみ。
 こうなってくると、さすがに無能だの石ころだのと逃げ回ってるわけには行かなくなった。少しでも家計の
足しにしようとバイト先を探すことにしたのだけど、パラパラとアルバイト情報誌をめくっていると数分も
しないうちに気が滅入ってきた。バイトってそんな簡単に務まるものだろうか? 何の取り柄も経験もない
私なんかに、果たしてお給料を払ってくれる雇い主がいるんだろうか。向こうだって教会や慈善炊き出しを
やってるわけじゃなし、役に立たない女の子を相手にする時間なんてないんじゃないか……いつもの自虐思考が
頭をもたげてくる。自分に何ができるかなんて観点でバイト探しをしてたら永遠にバイト先なんて見つからない
ような気がした。
《だったら……どうせなら、可愛いのがいいな》
 素のままの自分に価値なんてない以上、お金を稼ぐには仮面をかぶるしかない。どうせ偽るのなら
本当の自分とは真逆の仮面をかぶりたかった。制服が可愛くてやり甲斐があって、人と会って話すのが楽しく
なるような仕事がいい。とにかく今の自分と正反対の存在を装えば、雇い入れてくれる奇特な人も見つかるん
じゃないかって思った。
 そんなことを考えながら商店街をふらついていて、偶然見つけた1軒のお店。そこでは私の憧れである
可愛らしい制服を着た女の子たちが、私の理想とはほど遠いオドオドとした態度とギクシャクした仕草で
接客をこなしていた。そんな様子を見た私の脳裏で何かがはじけた。
《なってない、全然なってないなっ、アレは!!》
 経験などないくせに妙に耳年増なところのある私は居てもたまらず、ほとんど衝動的にそのお店の扉を
くぐったのだった。


 そして今。鏡の前には不機嫌な顔をした眼鏡の女の子が、可愛らしいけれど全く似合わない制服に身を包んで
立ち尽くしている。他人の仕草にあれだけ文句をつけておきながら、いざ自分がその姿になってみると同レベルか
それ以下。情けない話としか言いようがないけど、でも今さら引き返すなんて出来なかった。私は鏡の向こうに
いる臆病者に喝を入れた。
 まったく、なんて顔をしてるんだ? 戸惑いなんて捨てろ、冷静になんてなるな。そんな顔してたら誰も雇って
なんかくれないし、先輩たちに顔向けなんてできないぞ。顔を上げろ、眼鏡をはずせ、口を大きくあけて笑うんだ。
この服を着ている間、お前は寡黙な優等生なんかじゃない、このメイドカフェの新人メイドなんだから。
 持ってても役に立たない羞恥心なんて捨ててしまえ。自分で勝手に限界を決めて小さな世界で満足してちゃダメだ。
前を向け、胸を張れ! アニメや漫画に出てくるような、つらい時も悲しい時も笑顔で癒してくれる天真爛漫な
メイドさん、お金を取るからにはそうでなきゃって自分でさっきそう言ったばかりじゃないか。余計なことを
考えるな、出来る出来ないは問題じゃない。そんなのは自分で決めることじゃないだろう。
 過去の自分は捨てるんだ。とらわれるな、はじけてしまえ、新たな自分を解き放て!!


「お帰りなさいませ♥、ご主人さま――――♥♥
 今日はなんになさいます? コーヒー? 紅茶?
 それとも私の、え・が・お?♥」


Fin.

タイトルアダルト
記事No83
投稿日: 2008/06/29(Sun) 01:50
投稿者ウルー
「……なんなの、これは」

 レース付きの黒い下着である。あだるてぃーな感じだった。

「……お母さん!」

 すぐさま犯人に目星をつけ――というか、着替えを用意してくれるよう頼んでいたのである――、ヒナギクは声に若干の怒りを含ませて母を呼んだ。

「はいはい、何かしらヒナちゃん」

 そう時を置かず、エプロン姿の母が浴室までやってくる。タオル一枚だけのヒナギクの姿を見て、「あらあら、風邪ひいちゃうわよ?」などと呑気にのたまったのが、さらにヒナギクの怒りを買う結果となった。

「なんなのよ、このヒワイな下着は!?」
「なんなの、って。この前買ってきてあげたヒナちゃんの勝負下着じゃない」
「自分で買うわよ、そんなの!」
「へぇ〜……」
「え、あ……今のは、そのっ。そ、それよりちゃんと説明してよ!」

 寝汗をシャワーで流してさっぱりしたと思ったら、母が着替えとして用意しておいてくれたのは問題のヒワイな下着だったわけで。つまりこれを着て学校に行けと言っているのである、この母は。別に誰に見せるわけでもないが、やはり恥ずかしいというのが正直な気持ちだった。

「それがね〜、最近雨が続いてたでしょ?」
「まあ、梅雨だからそれはそうでしょうね」
「それで洗濯物溜めてたら、ヒナちゃんの下着これしか残ってなかったのよ」

 言い訳するならもっとうまく言ったらどうなのか、と言ってやりたくなるほどだったが、ニコニコと実に楽しそうにしている母を見る限りは、わかっていてやっているということらしかった。余計にタチが悪い。論破してやるのは簡単だが、それで問題が解決するとも思えなかった。

「ほら、やっぱり愛娘には太陽の光を直接浴びたぽっかぽっかのパンツを穿いてもらいたいじゃない?」
「いい歳して堂々とパンツとか言わないでよ、こっちが恥ずかしくなるじゃない……まったくもう」

 ヒナギクは渋々、黒いブラジャーとパンツを手に取る。よく見てみると、確かにアダルトではあるものの、大人っぽさの中に可愛らしさが見え隠れする感じのデザインが割とヒナギクの好みに合っていた。

「……もう一回聞くけど、本当に他のはないのね?」
「うん♪」
「はぁ……」

 しょうがない、今日一日の辛抱だ……そうやって諦めたヒナギクは、あることに気付いた。

「ねぇお母さん。スパッツは?」
「ああ、実はね、最近このあたり一帯をスパッツ泥棒が荒らしまわっているらしくてね〜」
「雨続きで下着が干せなかったっていう話と矛盾してるわよ」
「あ、そっか。じゃあ、そうね……ほら、やっぱり愛娘には太陽の光を直接浴びたぽっかぽっかのスパッツを穿いてもらいたいじゃない?」





 生徒会室でちょっとした仕事を終え、校舎に向かう途中。普通の生徒の大半はこの時間帯に登校してくるため、人通りも多くなる。そのせいか、ヒナギクは無性に周囲の視線が気になって仕方がなかった。自意識過剰よ私、というか生徒会長なんだからちょっとぐらい注目集めてもおかしくないわよ、などと自分に言い聞かせるヒナギクではあるが、しまいにはヒソヒソ話までも聞こえるような気がしてきたのだから、なかなかの重症だと、本人はそう思っていた。
 そんなヒナギクの背後から、声をかける女生徒が一人。

「おはよう、ヒナ」
「きゃっ!? な、なんだ、美希か……びっくりさせないでよ」
「失礼だな。そっちが勝手に驚いたんじゃないか」

 美希の言うことは事実であり、やはり過剰に意識しすぎだとヒナギクは反省しかけたが、その美希がやたら神妙そうな顔をしているというか、反対にニヤけているように見えるというか、なんとなく自分は間違ってなかったんじゃないかと思わされてしまうような感じだったので、とりあえず反省は保留にしておいた。

「……なによ?」
「衣替え完了って先週だったっけ?」
「そうだけど……」
「夏服って生地薄くて涼しいのはいいんだけど、色々透けちゃうのが問題よね」

 雷が落ちた。
 ような気がした。

「な、なななな」

 慌てて両腕で背中を隠そうとするヒナギクだったが、身体の構造的に当然不可能である。どうしてこんな当然のことを失念していたのか、ヒナギクは自身の間抜けさを呪った。

「……まあ、ヒナだっていつまでも子供じゃないものね」
「ちょ、ちょっと」
「ヒナが本気だって言うなら、私は……」
「ねぇ、何言ってるのよ美希?」
「……ハヤ太くんと仲良くね」
「だから何の話なのよーっ!?」

 美希は答えることなく、およよと涙を流しながら走り去ってしまった。

(うう……どうしよう……)

 事実を突き付けられたことで、どうしようもなく恥ずかしさがこみ上げてくる。感じる視線も、聞こえるヒソヒソ話も、自意識過剰でも勘違いでもなかったのだ。そりゃ普通、こんな下着を着て堂々と学校にやってくる高校生なんていないだろうから、当然のことだ。

(それに、このまま教室に行ったら……ハヤテ君が……)

 想いを寄せる少年執事の笑顔が脳裏を過ぎると、ヒナギクの顔は途端に真っ赤に染まった。ハヤテ君に見られたら、なんて思われるだろう。ふしだらな女の子だなんて思われたりしないだろうか。それで、軽蔑されたりしないだろうか。
 恋する乙女の思考がマイナス方向に暴走し始めたちょうどその時、再びヒナギクの背後から声をかける女生徒が、今度は二人。

「アダルティな黒いパンツが丸見えの生徒会長さん、おはようございます!」
「ダメよ文ちゃん、パンツ丸見えなんて嘘を大声で言っちゃ。おはようございます、アダルティな黒い下着の生徒会長さん」

 ギギギ、と動作不良を起こした機械かのような動きで恐る恐る振り向いてみれば、そこには今春からの新入生である文とシャルナがいた。

「お……おはよう」

 できるだけにこやかに言ったつもりだったが、小動物のごとき素早さでシャルナの後ろに隠れた文を見る限り、それは失敗に終わったらしい。

「シャ、シャルナちゃん。私、なにかアダルティな黒いパンツが丸見えの生徒会長さんを怒らせるようなことを言ってしまったのでしょうか……?」
「パンツ丸見えだなんて嘘を言うのがいけないんじゃない?」

 二人とも、悪気があって言っているわけではない。と、信じたい。
 何より痛いのは、今日に限っては文の言うこともあながち間違いではないというか、パンツ丸見え以外は全て事実であるという点だった。なんにせよ、これ以上関わればろくなことにはならないと、ヒナギクの勘がそう告げていた。

「あ、あなたたち。早く行かないと、遅刻になっちゃうわよ? だから……」
「はっ! シャルナちゃん、なにやら向こうからやたら騒がしい人たちがやってきます!」
「ねぇちょっと、どうしてそんなタイミングよく聞く耳持たずなの!? わざとなの!? ねぇってば!」
「ですが、騒がしいのは本当のようです」



「さぁ綾埼、おとなしく俺のモノになれ! ふははははっ!」
「なに朝っぱらから理不尽かつ気色悪いこと言ってんですか、あなたはぁああぁあああっ!!」



(ああ……最悪……)

 少年漫画で多用されるような効果音を撒き散らしつつ、おおよそ人間とは思えないような、それこそ少年漫画みたいな戦いを繰り広げながら、少しずつこちらに近づいてきている二人は、問題の綾埼ハヤテと、同様に今年からのクラスメートである瀬川虎鉄だった。
 内心、ナギの引きこもりに付き合って休みだったりしないかな、などといつもの生徒会長らしくないことを考えていたヒナギクだったが、世の中そううまくはいかないものなのだった。
 ヒナギクが絶望している間にも、ハヤテと虎鉄の攻防は続いていた。お互いに跳躍し、飛び蹴り――ほんの一瞬の交差、互いに決定打を与えることもできず、再び地に足をつける。ヒナギクにとっては良いのか悪いのか、ハヤテが着地したのは、彼女ら三人のすぐそばだった。

「まったく、変態のくせに戦闘力だけは無駄にあるんですから……」
「俺がなぜこんなに強いのか知っているか、綾埼。それはな、おまえを守るためさ」
「だったら手出ししないで突っ立っててくださいよ。泣いて謝るまで殴るのをやめませんから」
「ふふ……そういうプレイがお望みなら、最初からそう言ってくれればいいものを」
「いやもう、ホントいい加減に……って、おや?」

 ハヤテが、背後で自分を見上げるキラキラした瞳に気付いた。文のものである。

「す、すごいですシャルナちゃん! 文、すごいものを見てしまいましたっ! これが、これが……っ!」
「文ちゃん、落ち着いて」
「これが、大人の世界なのですねっ!?」
「え? 人間離れした戦いのほうに感動してたんじゃないの?」

 思わずツッコミを入れてしまうヒナギクだったが、そのせいでハヤテに気付かれる羽目となってしまった。まあ、この状況では遅いか早いかの違いでしかないのだが。

「あ、おはようございます、ヒナギクさん」
「お、おおおおはよう、ハ、ハヤテ君」

 虎鉄の時とは打って変わってにこやかに挨拶するハヤテだったが、ヒナギクは嫌な汗をかきっぱなしだった。ちなみに、汗をかくと余計に透ける。

(ど、どどどどうしよう!? 気付かれてはいないみたいだけど……)

 それは、ハヤテがヒナギクたちに応じながらも虎鉄への警戒を怠っていないからであり、いつもならヒナギクもむっとしていたりする場面なのではあるが、今はそれどころではない。

「……さて、早いとこケリをつけたほうが良さそうですね。お嬢さまとも早く合流しなければなりませんし。放っておいたらまたどこでサボることやら」
「あんな引きこもりの軟弱オタなどどうでもいいではないか。それより、俺と一緒にネバーランドで愛を語り合おう、綾埼」
「……お嬢さまを侮辱することは許しませんよ?」

 ヒナギクがあーだこーだと悩んでいる間に、超人執事二人は再び戦闘態勢に入っていた。ハヤテはその言葉通りにさっさと決着をつけるつもりなのか、深く呼吸し、全身に力を巡らせていく。

「皆さん、スカートをしっかり押さえててくださいね。まあヒナギクさんはスパッツですから大丈夫だと思いますが」
「へ?」

 よく分からないながらも、言われたとおりにスカートを押さえる文とシャルナの横、一人悶々としていたヒナギクは、ハヤテの言葉を聞き逃してしまっていた。

「いきますよぉ……!」
「ふっ……! 前からでも後ろからでも、来るがいい綾埼! しっかりと受け止めてやる!」
「ええい、もうくたばりやがれこの野郎! 必殺! ハヤテの、ごとく――!!」

 ぶわ。

「へ?」
「ああ、こういうのを嘘から出た真と言うんですね。ひとつ勉強になりました」
「そ、そんなっ! 前に見た時よりもアダルティですっ!?」

 決着がついた。いろいろと。

タイトルチャット会ですが
記事No84
投稿日: 2008/06/29(Sun) 01:54
投稿者ウルー
バイトとか大学の課題とかで参加できないかもしれません。
一応バイトが終わるのが22:00となっているのですが、課題の進行状況によってはそちらを優先しないといけませんので。
22:30までに現われなかったら、不参加であるとお考えください。
批評については、本人不在という形になってしまいますが遠慮なくやっちゃってくださいませ。

タイトル尻切れ?
記事No85
投稿日: 2008/06/29(Sun) 08:20
投稿者双剣士
参照先http://soukensi.net/ss/
 今夜のチャット会より前に、ウルーさんがこの書き込みに気づいてくれるのを祈って……

 えっと、この話、なんか後半が切れてるみたいな印象を受けるんですが、投稿時に後半が切れちゃった、みたいなことありませんか?
 ヒナギクはひたすら『ハヤテがどう思うか』を気にしてるのに、それを全く描写しないまま文とシャルナの台詞をもって締め、というのは不自然に思えるのですけど。

 もし本当に文章の一部が切れてるようでしたら、夜8時までに修正機能を使って直しておいてください。
 これが私の誤解であって、ここで終了なのでしたら返信は要りません。今夜チャット会でお話できるのを楽しみにしています。

△13:39 追記
 修正を確認しましたので、上述の指摘は古いものとお考えください。

タイトル別に尻切れというわけではないのですが
記事No86
投稿日: 2008/06/29(Sun) 13:07
投稿者ウルー
読み返してみたら確かに不自然な感じがしたので、当初考えていたオチをアレンジして追加しときます。

タイトルchange of season
記事No87
投稿日: 2008/06/29(Sun) 13:17
投稿者絶対自由

 季節と時は移り変わる。それを止めることは出来ない。
 昨日の事は過去に、今日の事も、明日には過去になる。
 季節も同じだ。移り変わればそれはまた別の季節。その年だけの、特別な季節が来る。それを識る、若しくは信じる者は少ない。また同じ春、夏、秋、冬……それを繰り返すと誤認している。
 巡る季節は、どれも劇的に変化していると云うのに――


 change of season


 梅雨と云う、心沈む時期が近付き、素晴らしい陽気であった春が過ぎ去ろうとする頃合――この移り変わりの時期に、決まって人はとある行事を行なう。
 衣更え
 春物の服を仕舞い、夏物の服に、衣を更える行事である。
 古来では『衣更え』と云う、季節の移り代わりに、服を一新させる『更』の文字が使われていたが、最近では『衣替え』の方が一般的である。
 が、この東京の何処かに存在する、三千院家の屋敷では、『衣替え』と云うよりは、『衣更え』の方が相応しい。
 莫大な富を手にしている三千院家にとって、衣更えとは服を処分し、新しい服に替えると云う事なのである。まさに一新である。
「本当にこれも処分するんですか?」
 衣更えと云う事もあり、三千院家の時期頭首である少女、三千院ナギの執事をしている綾崎ハヤテは、ナギの服を処分する手伝いをしていた。
「ええ、まぁ。勿体無いとは思うんですけど……」
 その隣で、ナギの下着を処分しているのが、この屋敷の有能メイドであるマリアである。
 昨年までなら、マリア一人でも事足りるほどの服の量しか無かったのであるが、去年の暮れ、ハヤテがこの屋敷に来てからはナギの洋服と下着が増えた。……無論、容易に予想できる理由であるが……
 故に、今年はハヤテも駆り出されているのである。
「あのー、マリアさん? 大変な様でしたら量の多い其方も手伝いましょうか?」
 処分すると云うのに、一つずつ丁寧に服をたたむハヤテは、一向に量が減らない下着を眺めて、問うた。
「いえ、大丈夫です。ハヤテ君は其方の方を……」
「でも減っていませんよね? 量」
「……」
 確かにその通りであるのだが、
「ハヤテ君は一応男の子なんですから、女の子の下着を触ることはいけません」
 そう理由をつけて断る。確かにその通りである。
 只でさえ、ナギの服を処分するのにハヤテが駆り出される際、ナギが猛反対したと云うのに、下着までハヤテがやってしまった場合、ナギがどう文句を言うかが想像つく。加えて、マリア自身の理由もあり、ハヤテには下着を処分させるわけには行かない。
「ハヤテ君にはこの後にお買い物を頼みたいので、取り敢えず、其方が終ったら呼んで下さい」
「はぁ……」
 納得したのか、若しくは諦めたのか……ハヤテは自らの作業に没頭し始めた。

     ■

「なんや、衣替えか?」
 同じく東京のある地域に立つ日本屋敷、鷺ノ宮家。和の景色を残したその家でもまた、夏へ移り変わると云う事で衣替えが行なわれていた。
「ええ」
「ふぅん……これ、なんや?」
 大阪弁を話す少女、愛沢咲夜は、一つ、不自然な違和感を放つ着物を指差す。
「それは『天の羽衣』。強力な霊力があるから触っちゃ駄目よ。それも仕舞わなくてはならないから」
「さ、さよか……」
 その着物から離れる咲夜。危うく触るところであった。
「因みに、触るとどうなるんや?」
 聞くと、和服を着た少女、鷺ノ宮伊澄は、
「取り付かれると、空を飛んで月まで飛んで行ったりするわ」
「……さよか」
 触らなくて良かった、と咲夜は胸を撫で下ろす。
 尚、此処、鷺ノ宮家では、三千院家と違い、服はまた何時か着る時の為に取っておく。
服には時に、作り主の魂が宿ると云う。それが欲望の魂か、それとも精神を懸けて作り出した一品なのかは不明であるが、兎にも角にも、服に作り主の魂が宿った場合、着た者に何らかの影響を与える可能性もある。
「そう言う事」
 本日数回目の「さよか」を言った咲夜は、別の着物を手に取る。
「これは……まさか呪いがあるとかいわへんよな?」
 手に取った着物は、小さい着物で、とても伊澄が着られる様な代物ではないのだが、処分する箱では無く、取っておく箱に入っていた。
「それは駄目」
「なんや? やっぱし呪いがあるとか……」
 首を振って否定をする伊澄。
「それは……ナギのお母さんが着ていた服だから」
「ゆっきゅんが?」
「ええ。そう聞いてるけど……」
「どないするんや? これ」
「見つけたのが昨日だから、今日の内にナギの家に持っていこうかと思ってたんだけど……」
「ほな、とっとと行こか」
 伊澄の手を引っ張り、強引に連れて行こうとする咲夜。……退屈していたのであろう、面白い事のある三千院家の方が良いと思ったのであろう。片付けの途中である伊澄を引きずる。
「え、でもまだ……」
「んなもん、帰ってきてからやればエエんや」
 笑顔でそう言い、咲夜と伊澄はそのままナギの居る三千院家へと歩を進める。

     ■

 作業を終らせたハヤテを、マリアは買い物へと促し、屋敷にはマリアとナギしか居ない。無論執事だけなら他にも執事長のクラウスが居るのであるが、出張等が多いために本日も居ない。
 マリアは処分する洋服、そして下着を持ち、次に整理する部屋へと入る。
「ふぅ、この部屋で最後ですわね」
 三千院家の一番奥の部屋である。
 ナギが本家の方から此方の屋敷に引越しして来る際、本家の荷物を置いただけの、ほぼ物置に近い部屋であるが、毎日掃除はしている為に、埃は無い。
 先ほどまでの荷物を手近なテーブルに置き、部屋の横にあるクローゼットを開く。と、去年買ったものは良いものの、使わなかった服が大量に置いてあった。
――これも処分ですかね……
 幾ら見てくれは成長していなくとも、育ち盛りであるナギも少しは体格に変化があるであろう。一年も前の服を着られる訳も無い。
 溜息を吐きつつも、マリアは服を処分する箱にまわす。
 と、
「あら」
 小さな声をあげて、マリアは、一つのボックスに気付く。
 今までこの部屋には何回も衣更えの際に訪れて服を処分しに来ていたが、こんなボックスがあったとは知らなかった――それが運命の悪戯か、それとも偶々マリアが気付いていなかったのかは謎であるが……兎に角、マリアはそのボックスも開いて見ることにした。
 中には、様々な女性用の服があり、どれも、ナギには大きい。辛うじて、マリアが着られるか着られないかの瀬戸際である。
 誰のものか最初は解らなかったが、直ぐに、
「これは……」
 ナギの母親である、三千院紫子の服であった。



「衣替えをしてみた」
 買い物終了後の帰り道、突然現れた自縛霊、元神父、リィン・レジオスターはハヤテに、親指を立てながらそう言った。
「……だから何なんですか? と云うより幽霊も衣替えするんですか!?」
 無論だ、と答える幽霊神父リィン。
 そして胸ポケットから一枚の写真を取り出す。
「これを見たまえ」
「いえ、僕一応まだ生きているんでそっちの世界の写真はつかめませんね……」
 リィンの差し出した写真を通り抜けるハヤテの手を視て、
「ふむ、ならば仕方が無い。私が持っているから見たまえ」
 と写真をハヤテの目の前に持ってくる。
 と、そこには何等変わりの無いリィンの姿がメイドと共に写っていた。
「何も変わってないじゃ無いですか。以前に、誰ですか、この人」
「彼女の件に関してはいずれ話そう。それより、君はこの変化が解らないのか?」
 全く、と言うハヤテに、リィンは溜息を吐いて見せた。
「良く視たまえ……ほら」
 が、ハヤテが幾ら眺めようと全く変化した様子は無い。
「……降参です、僕には変化が解りません」
 そう言うと、ふむ、とリィンは頷き。
「タネ明かしだ。
 見たまえ、今の私とこの写真の私、色が違うだろう!?」
 そう言われて見れば、と、言われて初めて気付くものもあると云うわけである。確かに、今現在、ハヤテの横に居るリィンと、写真の中に居るリィンは、色が違っていた。
「……って色が薄くなっただけじゃ無いですか!?」
「何を言うか! これでどれだけ違うと思っている! 違いは、アレだ、某ゲームのヒロインがアンリ・○ユに汚染された姿並みに違うだろう!?」
「そんなに変わってませんよ!」
 口論をする二人であるが、一般人から見れば独り言を言っている様なものであり奇怪な目で視られる。
「兎に角、その話は後で」
「そうするか。道端でやっても意味が無い。
 全く、夏に近付くにつれて私の体は薄れていくと言うのに……」
 それは御盆が近いからじゃないだろうか、と思うハヤテであった。

     ■

 Y・Sと描かれていたあたりから、紫子のものだと直ぐに気付いた。
「ナギ」
 扉を開けると、ナギがテレビを見ながら麦茶を飲んでいた。
「なんだマリア? 服の処分は終ったのか?」
「その事なんですけど……これは如何しましょうか?」
 ボックスごと持って来たマリアは、床にそのボックスを置き、一つ、服を取ってナギに見せた。
「なんだこれは?」
「その……ナギの、お母さんの衣服なのですが……」
 その言葉を聞いた刹那、ナギの顔色が変わった。
 曇った……いや、悩んでいる、と云うのも取れる。母親の物を置いて置いてもあの頃の思い出が蘇るだけ、と云って捨てるのも思い出を捨てるようで嫌……マリアにはそう見えた。
「……」
 無言で悩むナギ。
「まぁ、兎に角この屋敷の主である……何より、あの人の娘であるナギが決めてください。私は此方の処分をしてくるので」
 そう言って、マリアは部屋の扉を閉めた。
 扉を閉め、ナギが見えなくなるまで、ナギの立ち姿勢は、変わらなかった。

さて
 マリアは服を置いて来、その後、ナギの答えを聞くために一旦部屋に戻った。
「ナギー、決めましたかー?」
 マリアは扉を開けて部屋を見る、と、
「あら?」
 ナギは部屋から姿を消していた。


 ナギが硝子の様な繊細な心の持ち主だと、マリアは知っていたのであるが、まさか此処まで悩むとは思っていなかったのである。
「あ、マリアさーん、お買い物終りましたよー」
 と、廊下を歩いている途中、買い物から帰って来たハヤテがそこに居た。
「どうかしましたか?」
 ハヤテはマリアの異常を察したのか、そう問うた。
「ええ、実は……」

「了解しました。では、お嬢様を捜索して来ます!」
 そう言って、ハヤテは走り出す。
 ……と、言ったものの、ハヤテ自身、マリア程ナギの事に関して熟知している訳ではなく、ナギが向かいそうな場所などは知らない。
「お嬢様が行きそうなところは……」
 一つずつ、部屋の扉を開けながらハヤテはそう呟く。
「何時もなら都合よく一コマで見つかるのにな」
 後ろから聞こえる神父リィンの声を無視しつつ、ハヤテはナギを探す。
 都合よく見つかるとは思っていない、が、それでも探す。
 もし彼女が悲しんでいるのであれば、それを助けるのが執事――いや、綾崎ハヤテの役割である。
 そして凍った心を溶かすのが、マリアの役割なのである。
「彼此一時間……あっという間に過ぎましたね」
「まぁ、それはね。この話の趣旨上は時間を少しは経過させて置かないと……」
 リィンは先ほどから、実体が無いのでどの様な原理で手に取っているかは不明だが、PSPで某雪の町ゲームを楽しんでいた。
「……そういえば神父さん幽霊ですよね?」
 ハヤテからの問いに、如何にも、と返すリィン。
「この間もそうでしたけど、突然モノローグに現れたり、居なくなったり、出て来たりしてますよね?」
 この問いには頷きで返すリィン。
「――って云う事は、今お嬢様が何処に居るとか解ったりするんじゃ……」
「無論だ」
 ……暫しの沈黙が流れた。
「私が認識していないのは、あのメイドさんのお風呂の時間ぐらいなもの……」
「神父さん。
 今直ぐに、お嬢様の居場所を教えてください。それと、マリアさんに変なことを一つでもしてみてください、全力で僕が貴方を消滅させます。
 そうですね、試しに伊澄さんにでも……」
 携帯電話をチラつかせるハヤテ。
 リィンの顔色が変わる。
「冗談はよせ。彼女は重度の天然! もといオロオロキャラクター! そんな彼女が電話に出ることなど愚か、仮に電話に出れたとしても、無事に目的地に辿り着くことなど、ふかの……」
 う、と言いかけた刹那。
「なんや、借金執事やないかー」
 ベストなタイミングで伊澄を連れた咲夜が現れた。はかった様なタイミングである。
「咲夜さん、伊澄さん。丁度良い所に……」
 一つ、後ろでリィンが咳払いをした。
「OK、解った。な、冷静に話し合おう」
 ハヤテは笑顔を作って、リィンの方を向いた。

     ■

 果たして、リィンの言った所にナギは居た。
 何時だったか、マリアの花を駄目にした際に、花を取りに来た崖場所である。
「お嬢様!」
 立っているナギを視るなり、ハヤテは自らの主に駆け寄る。
「何処へ行っていたのですか? マリアさん、心配していましたよ」
 その言葉に、ん、とだけ返すナギ。依然、視線は遠くを向いており、ハヤテを視ようとはしない。

「ハヤテはさ……誰か大事な人をなくした≠アとはあるか?」
 そのなくした≠ヘ、失くした≠ネのか亡くした≠ネのかは解らない。只唐突に、ナギはハヤテにそんな質問を投げ掛けた。
 ナギは続ける。
「私にはあるぞ。いろんな人をなくした=v
 それが誰なのか……ハヤテには覚えがあった。
 ナギの母親――三千院紫子。
 そして、ナギを『守る』と言って、その後に姿を消した元執事……
 どうして突然、その様な質問を投げ掛けたのか……
「母の服を見ると……いや、母の持っていた物全てを視ると、私、やっぱり寂しいんだ」
 それは、何時だったか、咲夜の誕生日の時に垣間見せた、ナギの心――
 こんどこそ、とハヤテは思った。
 あの時は掛けられなかった言葉。今だから言える……と云う訳でも無い。自らの主の心の繊細さ、そして傷の深さを知っている訳でも無く、況して、自分自身の手で大切なモノを失くしてしまったハヤテに、ナギの心を果たして癒すことが出来るのか……
 無論、ナギにとっては、ハヤテが居る事が何よりの幸せである。ハヤテの言葉はナギの幸せに通じる。
「僕にも居ますよ」
 返したのは、そんな言葉だった。
「随分前の事ですけど。記憶ももう忘却しかけていて、この間夢で少しみちゃいました。自分のせいで人を不幸にしたり、怒らせたり……そんな毎日から救ってくれた人でした」
 その顔は、誰が視ても辛い過去を思い出す顔だった。
「返って@ないのは解っています。それでも、自分に初めて優しくしてくれた人だった……」
 言葉を続ける。
「……それでも、それはもう過去の事です。決して返っては来ません――」
 そう、返ってはこない。それは過ぎたこと。過去の事実。
「お嬢様は、今の生活が、嫌いですか?」
 その最後の言葉に、ナギは振り向いた。
「僕は好きです。
 お嬢様が居て、マリアさんが居て、咲夜さんも、伊澄さんも、ヒナギクさんも、皆、皆が居ます」
 少し前では考えられない生活。友人に囲まれて、笑い、泣き、暮らし……そんな当り前を経験してこなかったハヤテにとってその生活は夢なのである。
「昔の事を思って、一人≠ノなりたい事は僕にもあります。けど、独り≠ナ悲しまないでください。僕はお嬢様の気持ちを完全に知っている訳では在りませんし、マリアさん程お嬢様の事を知っている訳ではありません。お嬢様の気持ちを理解してあげることは僕には出来ません。僕はお嬢様ではありませんから。
 それでも、少なくとも僕は、受け止める事は出来ます」
 その言葉に、はっ、となる。

「そうか、そうだよな。あの時、私から『私の傍に置いていてやる』って言ったんだ。『ハヤテは家族だ』って言ったんだ。なのに、私自分だけで抱え込んで……
 ハヤテ、私……」
 ナギの顔が上がる。
 ナギの視線の先には、笑顔のハヤテ。
 手を差し出し、

「さぁ、お嬢様。
 衣替えをしましょう。
 心の衣替えを……」

 頷いた。




「これも私のお陰だな。私が彼女を見つけ出さなければこの結末は無かった。ふむ、これはかなりの戦果だ。アク○ズの落下を防いだ並だ」
 ははは、と高らかに笑う神父リィン。
 その横で、
「最後の最後で台無しにしよって……お前のようなヤツが居るから、戦争がおわらへんのやぁ―――ッ!!」
 ハリセン片手に飛びかかる咲夜。
「私達の出番は? これだけですか?」
 伊澄がそう呟きながらナギとハヤテを眺め。

「……あれ、私忘れられていません?」

 有能メイドさんは完全に空気と化していた。




 ――心と身体を着替えましょう
   ボロボロになったシャツを脱いで
   去っていく季節と共に変わって行きましょう
   未来はきっと……明るいから――


           /了

---------------------------------------------------
再びこの場に、絶対自由です。
今回は衣替えと云う事で、心と身体の移り変わりをテーマにしようと考えていました。
が、矢張り自分は未熟なのか、ちょいと無理矢理の部分があります。
それでも、この小説を読んだ時間が、無駄では無かったことを切に祈っております。

タイトル第11回批評チャット会ログ
記事No88
投稿日: 2008/06/30(Mon) 01:45
投稿者双剣士
参照先http://soukensi.net/ss/
6/29(日曜)に開催された、批評チャット会のログを公開します。
久々の3人チャット、しかも参加者は投稿回数ベスト3の人ばかりと
いうことで、今回は率直で厳しい意見が多かったように思います。
なかなか読む人は作者の思惑通りには見てくれないということで、
作者にとっては厳しくも勉強になるチャット会になったと思いますが…
…う〜ん、投稿をためらってる人たちは今回のログで引いちゃうかな?

http://soukensi.net/odai/chat/chatlog11.htm