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タイトル新春スペシャル企画 (12/15〜1/12,13)←批評会はオープン参加
記事No129
投稿日: 2008/12/15(Mon) 00:09
投稿者双剣士
参照先http://soukensi.net/ss/
お題SSに取り組む前に、以下のルール説明ページに必ず目を通してください。
http://soukensi.net/odai/hayate/wforum.cgi?no=1&reno=no&oya=1&mode=msgview&page=0

なにか疑問などがありましたら、以下の質問ツリーをご覧ください。
そして回答が見つからなければ、質問事項を書き込んでください。
http://soukensi.net/odai/hayate/wforum.cgi?mode=allread&no=2&page=0

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 お正月スペシャル企画として、普段とは少々違うルールでの投稿を募集します。

1.取り扱うお題はフリーです。ハヤテSSであれば、どんな物語でも構いません。
  他作品とのクロスでもかまいませんが、元ネタを知らない読者が批評しにくく
  なることは覚悟してください。

2.えっちな展開を認めます。ただし性交渉モロ描写はNG。

3.批評チャット会は雑談チャットの会場で行います。すなわち
   ・投稿してない方でもチャットに参加可能
   ・チャットにログインしなくても会話を閲覧可能
  ということです。

4.今回はチャット会を2回に分けます。
   1/12(月曜):辛口批評禁止、良いところを述べ合うチャット会
   1/13(火曜):通常通りのチャット会
  作者の方はどちらかに参加してください。参加してくれた方のチャット会で
  その作品の批評を行います。もちろん両方に参加してくれても構いません。
  (あらかじめどちらに参加するかを明言する必要はありません)

5.チャット会に参加できない方は、どちらのチャット会で批評して欲しいかを
  投稿SSの冒頭に記入して置いてください。チャット会ログとして結果をお見せします。

(注:このスレッドへの投稿では作者IDは発行されません)

タイトル炬燵最強説
記事No130
投稿日: 2009/01/11(Sun) 20:44
投稿者黒獅子
東京のどこかにある普通のマンションの一角から“カリカリ”とノートにペンを走らせる音が聞こえる。
机に向かう少女は一心不乱にプリントに記載されている問題を解き、外から聞こえる喧騒には見向きもしない。
そう、その姿はまさに“学生の本分は勉強”という言葉をそのまま体現したかのような―
「あー! もう限界!
 やってられるかー! 」
前言は撤回させていただきます……



 声高らかにギブアップを宣言した少女―西沢歩―は、すぐさま部屋のベッドへともぐりこむ。
 気合を入れて取り組み始めた冬休みの宿題は、開始わずか15分で机の上に放置される結果となった。
 そうなるのも無理はない。
 なぜなら、今この部屋の暖房器具は故障が重なって全滅しているのだから。
 地球温暖化だのヒートアイランド現象だのといろいろ巷で騒がれようとも、冬は寒いといったら寒いのである。
 「あーどうしよう。
今日を逃すとしばらく時間は取れないし、何とかしないと間に合わないよぉ 」
一般的にクリスマスイヴとともに始まる冬休み。
 年が明ければイベントがごった返し、過ぎればすぐさま三学期。
勉強時間を確保することは中々難しいものである。
 そんな数少ない好機に、最悪のタイミングで訪れるこの不幸。
 しかし、そんな理由で宿題ができませんでしたなどとは絶対にいえない。
 そんなことが意中の少年の耳に入りでもしたら、それは彼女の中で破滅を意味するからだ。
 「今家には誰もいないし、あそこでするかな 」
 覚悟を決めて勢い良くベッドの中から飛び出し、勉強道具一式を脇に抱えると、歩は一目散に目的地へと急いだ。



 「はあ、やっぱ冬はこれに限るなぁ〜 」
 先ほどの焦り具合からは打って変わって、のんびりとした歩の声。
 原因は彼女が今体をも潜り込ませた日本の誇る暖房器具の一つ、炬燵である。
 誰もが認める普通の一家である西沢家には、多分に漏れずこの時期リビングに設置されている。
 赤外線から発せられた熱により冷え切っていた下半身は見る見る温まり、体全体が独特のけだるさに包まれる。
その威力はやはり他の器具を凌駕する。
 「さーてと。あったまってきたところでそろそろ始めようかな 」
 歩はペンを手に取り、宿題に取り組んだ。



「あはははー、やっぱアン○ッチャブルはおもしろいなー……って何やってるなかな私は!? 」
 なぜか気がつけばみかんをほおばりながらお笑い番組で爆笑。
 息抜き程度にテレビをつけてみればこの体たらくである。
 恐るべきは炬燵の居心地のよさ。
 そこにみかんも加われば、対抗することは至難の業だ。
「あーっ、こんなまったりしてる場合じゃないんじゃないかな?
 何とかそれなりのところまで仕上げないといけないんだから! 」
 迫り来る誘惑という名の大敵を、声を張り上げ何とか振り払うと、歩は再び宿題のプリントへと向かう。
 再び静寂に包まれる部屋。
 そのまま宿題が順調に消化されていくと思われたが、そこで現れるもう一つの誘惑。
 そう、睡魔である。
 炬燵の中に長時間入ってこれを体験したことないものはまずないだろう。
 次第に瞼は重くなり、集中力は四散し、頭は徐々に舟を漕ぎ始める。
 一介の女子高生が耐え切るわけもなく、意識は確実に夢の世界へと誘われる。
(ううー、だめ……もうげんか…… )
 白旗を揚げ、意識を手放し倒れこもうとする。
 だが、机の脇に置いた携帯電話が手にあたり、少々勢いをつけながら床へとダイブしてしまう。
「わわっ! ちょっ、大丈夫かな? 」
 慌てて異常がないかどうかを手に取り確かめる。
 ボタンを適当に押していじってみるが、特に問題はないようだ。
 そのときだった、開いた携帯に貼ってある思いを寄せる少年と撮ったプリクラが目に留まったのは。
「ハヤテ君、今頃何してるのかな? 」
 “親に借金のかたにやくざに売られ、臓器をとられそうになっていたところを世界有数の大富豪のお嬢様に救われた”などということはもちろんこのとき考え付くわけもなく、いつものようにバイトに明け暮れている姿を想像する。
 そしてまじめな彼のことだ、そんな忙しい合間を縫ってきっちりと宿題もこなしているのだろう。
 それに比べれば自分はなんと怠けていることか。
 「うん、これぐらいで投げ出してられないよね。
  私も頑張らなきゃ! 」
 今まさに眠りに堕ちようとしていた姿はどこへやら。
 両手でほほを叩き心機一転、歩は三度宿題へ取り組み始めた。



「はい、それじゃあ各自宿題を提出してくれ」
 冬休み明け早々のホームルーム、担任のその指示とともに順番に生徒たちが教卓へとプリントの束を重ねていく。
 その中の一人である歩は、得意満面な表情で宿題を提出する。
 課題を処理しきっていることは明白だ。
 しかも周りのクラスメイトのほとんどが終わりきっていないために、その喜びもまたひとしおである。
「おお西沢。お前が全部やってくるとは思わなかったよ。
 たいしたもんだなぁ 」
 いつもは憎まれ口を叩く宗谷からの感嘆の声。
 そしてそれに同調して彼女を褒め称える友人たち。
 “そんなことないよぉ”とは言ってみるものの、顔がにやけることを止めることはできない。
 (えへへへ、これは頑張った甲斐があったかなぁ)
 そんな上機嫌の最中、『彼』が話しかけてくる。
「宿題全部終わらせたんですか。
うわぁ、凄いですね西沢さん」
「へ? あ、綾崎君!? 」
思っても見ないハヤテからの褒め言葉。
 しどろもどろになりながらも、なんとか上ずった声で“ありがとう”と返す。
 しかし、会話はそこで終わらない。
「あの、実は僕まだ全部終わってないんですよ。
 それで、もし西沢さんがよければ放課後手伝ってもらっていいで すか? 」
「へ? そ、それって…… 」
 放課後、宿題を片付ける二人。
 クラブ活動も終わり、静まり返る教室。
 邪魔するものは誰も居ない。
そして……



「うん…… そういうことならもちろんいいよー…… 」
口の端が緩みきった状態で炬燵にうつぶせになりながら、歩は今まさに夢の中。
 “だめだよ、こんなところでぇ……”などと寝言を言っているあたり、内容はずいぶんとエスカレートしているようである。
 もちろん机上の宿題は未完成のまま。
 恋する乙女のパワーも、炬燵の持つ巨大な力には敵わなかったようで……

ー完ー

12日の批評会にはこれない恐れがあるので、時間内に来ないようならお好きなように扱っていただいてかまいません。
13日の方には参加させていただきます。

タイトル京橋ヨミの1日
記事No131
投稿日: 2009/01/12(Mon) 19:54
投稿者双剣士
参照先http://soukensi.net/ss/
 この物語は、連載201−202話(単行本未収録)の裏話としてお楽しみください。

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 私、京橋ヨミ。園芸大好き14歳。
 今日もお店の手伝いで、お客さんにお花を届けて回っているの。
 この時期はゴールデンウイークで旅行とかに行く人が多くてちょっと寂しいけど、その代わり旅行に行かない人は
大抵お家にいるから、滅多に会えない人とかとお話しできて楽しいな。
 今朝も三千院家のお屋敷に行って、そこに勤めてる執事のハヤテさんとお喋りしたの。ハヤテさんって私より
ちょっと年上なだけなのに、人当たりはいいし世話好きだし話題は豊富だし……今日最初の行き先でハヤテさんに
会えて、ちょっと得した気分。
 さて、それじゃ2軒目のお客さんのところに行きましょうか。


 2番目にやってきたのは『鷺ノ宮』って表札のかかった大きなお屋敷。自転車で門まで来るのに40分もかかっちゃった。
ここには私とそう歳の変わらない女の子が住んでるらしいんだけど、私はまだ会ったことがないんだよね。
いつも黒服の人たちが「捜索隊だ! 警察に連絡を!」って忙しそうにしてるばっかりなんだもの。
 ピンポーン。
「こんにちは、ミスター園芸道の者ですが……」
 インターホンを押してしばらく待ったけど返事がない。まぁ忙しそうにしてるのはいつものことだし、と思って待っていると。
「なんじゃ貴様、この屋敷に何か用か?」
「あれ、どこから……えっ?」
 いきなり門の屋根から飛び降りてきたのは、白い和服を着た7歳くらいのちっちゃな女の子だった。変な模様の仮面で
顔の半分を隠した女の子を追いかけるように、塀の上から子猫たちが降りてきてニャーニャーと女の子の周囲にまとわりつく。
わっ、ひょっとしてこの子が、このお屋敷の子なのかな?
「こ、こんにちは。あなた、この家の子? ねぇ、おうちの人を呼んでくれないかしら?」
「先に名を名乗れ、全く近頃のガキは躾がなっとらん」
「…………」
 な、なんなんだろこの尊大な態度! まだ6つか7つのはずなのにこの威圧感、さすがは大金持ちの家の子だわ……
まぁこっちも客商売だし、ここで喧嘩してもつまらないよね。
「ごめんね、私は京橋ヨミ、お花屋さんからお花を届けにきたの。ね、お母さんは中に居る?」
「花? ああ、そういえば九重(このえ)が活け花をするとか言っとったかの。どれじゃ、その花は」
「え、えぇ、ここに持ってきてるけど……ねぇ、お母さんを呼んできてくれない?」
「だからワシが受け取ってやると言っておろう。あの九重のことじゃ、今朝言ったことなどケロッと忘れとるじゃろうからな」
 あくまでも偉そうな態度を崩さない白服の女の子。う〜ん私も商売だし、訳の分からない子に大事なお花を渡すわけには
行かないんだけどな。
「ねぇ、あなた本当にこの家の子?」
「何をバカなことを。前当主のワシが受け取ってやると言うとるんじゃ。さっさと渡せ、このハナ垂れ小娘めが」
「ちょっ……そんな汚い言葉を使っちゃダメだよ、お母さんに怒られちゃうじゃない」
「お母さんお母さんとうるさいのぅ。九重(このえ)や初穂(はつほ)や伊澄と違ってワシは記念SSに出番が無かったんじゃ、
そう邪険にするでない」
「????」
 訳の分からないことを喋りながら小さな手を差し出す女の子。ここまで話の通じない子は相手にしないほうがいいかも、と
私が身構えた途端、背中の自転車がガチャンと音を立てて倒れた。振り向いた先にはさっきの子猫が、自転車の籠にさしてた
商売用のお花をくわえて空中へと飛び上がろうとするところだった。
「ちょっと、ダメッ、この泥棒猫!」
「泥棒ではないわい、お前こそ若いくせに、はしたない言葉を使いおって」
 私が手を伸ばすより早く、ジャンプした子猫は私の頭上を軽々と跳び越す。その子猫を受け止めた小さな女の子が、
呆れたように私の言葉にツッコミを入れた。そして二の句の告げない私の目の前に、懐から取り出した札束をドンと放り投げる。
「三百万もあれば足りるじゃろ。釣りはいらん、それじゃの」
「え、え、困るよ、こんなのいきなり渡されたって!」
 なんなの、この展開? お金が足りる足りないとかより、あなたは何者、私どうなっちゃうの?
 軽くパニック状態に陥った私を放ったらかして背を向けた女の子は、そのまま門を開けてお屋敷の中に入っていって
しまった。居並んだ黒服の人たちが「大お婆さま」「銀華さま」とか言いながら神妙に頭を下げる中を、例の尊大な態度の
ままで歩いていく女の子。そして私が口をパクパクと震えさせたまま金縛りのように立ち尽くす目の前で、大きな門が
ギギィと閉まってしまって……後には分厚い札束と、千々に散らされた花びらとがヒラヒラと舞っていた。


 気を取り直して3軒目。お花は半分散らされちゃったけど、私を待ってくれてるお客さんは他にもいる。
 次に自転車を向けたのは『愛沢』っていう、これまた大きなお屋敷だった。ここにも私と同じ歳の女の子がいるんだけど、
この子は割と社交的で私とも気が合う。会いにくるのが楽しみなお屋敷だった。でも残念なことに、今回はタイミングが
悪かったみたい。
「申し訳ありません、咲夜お嬢様は旅行に出ておりまして……」
「そうなんですか……」
 黒服の執事さんに頭を下げられて、ちょっとブルーになった私。前のお屋敷がお屋敷だっただけに、楽しいお喋りをして
気を紛らわせたかったんだけどな……そう思った矢先に、黄色い声が私の名前を呼んでくれた。
「ヨミ姉ちゃんや!」
「わーい、ヨミ姉ちゃんや姉ちゃんや! ねー遊んで遊んで!!」
 咲夜ちゃんの妹の、夕華(ゆうか)ちゃんと葉織(はおり)ちゃん。この子たちも私の大切なお友達。
「わー、久しぶりねー、元気だった?」
「うん、元気元気、ばっちりや!」
「よぉ言うわ、サク姉ちゃんがウチら置いてベガスに行ってしもた言うて、さっきまで泣いとったくせに」
「泣いてへんもん、ゆーゆの意地悪!」
 きゃっきゃっと姉妹喧嘩を始める夕華ちゃんと葉織ちゃん。なんか良いな、こういう仲のいい姉妹って。
「あの、このお花、花びんに活けてあげていいですか?」
「あ、いえ、ここで私どもに預けてくれればそれで……」
「えっ、ヨミ姉ちゃん自分でお花を活けに来てくれんのん? やったー♪」
「ちょー待っとってな、おもちゃ片付けてくるさかい。行くで、はーちゃん」
「ラジャー!」
 小さな女の子たちはものすごい勢いでお屋敷へと駆け戻っていった。私は苦い顔をする執事さんたちに軽くウインクを
してから、両手にお花を抱えたまま愛沢家の門をくぐってお屋敷へと向かったのだった。


「ヨミ姉ちゃん、こっちやこっち! ゲームやろゲーム!」
「ヨミ姉ちゃん、クッキーあるで煎餅(せんべい)もあるで! ほら早ぅ早ぅ」
「あはは……」
 お花を花びんに活けるなんてのは口実にすぎなくて。お花を飾り終えた私はスカートを引っ張る夕華ちゃんたちに促されて、
ふかふかの絨毯に寝そべりながらゲームや絵本読みの相手をしてあげることになった。
 さっきの家の尊大で古風な口調の女の子に比べれば、夕華ちゃんたちは天使みたいに可愛い。優しいお姉さんたちに
可愛がられて育てられた甘えんぼの妹たちが、本当のお姉さんを慕うように私の背中にしがみつき頬を摺り寄せてくる。
私もこういう子たちは大好きだし、滅多にない機会だから精一杯可愛がってあげたいと思う。なんだか仕事中だってことを
忘れてしまいそう。
 と、そこに。
「やぁ京橋さん、わざわざ済まないねぇ、娘たちの相手までさせてしまって」
「あ、いえいえ、私も子ども大好きですし」
「ウチもヨミ姉ちゃん好きやで〜!」
「ウチも〜」
 照れくさそうに顔を出してきたお屋敷のご主人……夕華ちゃんたちのお父さんに向かって、私は愛想よく返事をした。
ところが葉織ちゃんたちの甘える声を聞いて、ご主人の表情が曇る。
「うぅ、男親なんてつまらないよねぇ……娘がなついてくれるのなんて、ほんのわずかな間だけ。今じゃ粗大ゴミ扱いだし」
「そ、そんなことは……」
「ふ〜んだ、お父ちゃん、つまらんダジャレばっかりしかよぉ言わんねんもん、面白ないわ」
「そーやそーや」
 愚痴モードに入りかけたご主人を私があわててフォローしたって言うのに、娘たち2人が傷口に塩をグリグリと擦り込んでいく。
思春期の娘がお父さんを恥ずかしがる気持ちは私も分かるけど、娘4人にこういう扱いされちゃキツイよね。
「あ、あのぉ……」
「な、なぁに、いいんですよ京橋さん。ウチはこうやって欠点をいじりあうのが家風なのでね」
 ……さすがはご主人、打たれ強さは天下一品。私が感心していると、ご主人は背中から白い封筒みたいなものを取り出した。
「それじゃお世話になってる京橋さんに、ちょっとしたプレゼントをあげよう。仕事中だろうから嵩張らないものをと思ってね」
「……日めくりカレンダー、ですか? 今日はお正月じゃなくて、もう4月の末なんですけど……」
「いやいや、あなたとウチの子との絆になればと思ってね。コ、ヨミ(暦)……なんちゃって」
「お父ちゃん、寒いわ!!」
 豪快な破裂音とともに、笑顔を浮かべたままご主人は膝から崩れ落ちた。倒れ伏すご主人の周囲には頭にぶつけられた花瓶と、
そこに入っていたお水、そして飾ったばかりの花束が無残な姿をさらしていた。


 昼過ぎまで愛沢家に長居をしてしまった私は、4軒目のお客さん宅へと自転車を走らせていた。自転車の籠には2軒目と
3軒目で散らされた花束の残骸が無造作に詰め込まれている。普通だったらもう売り物にならないお花なんだけど、
これから行くお客さんはこういうのがお望みなの。
 ピンポーン。
「こんにちは、ミスター園芸道です」
「は〜い」
 元気な声とともに飛び出してきたのは、大きな目をした10歳の男の子。このお屋敷の執事見習いさんだと初めて
会ったときは思い込んでて、あとで正体を聞いてびっくりしたのを覚えてる。何を隠そう、この子が大河内家の1人息子、
大河内大河(おおこうち たいが)くんなのだ。
「こんにちは、ヨミお姉ちゃん。綺麗なお花をどうもありがとう」
「はい、こんにちは。これが注文のお花と……それとこれが、大河くん向けのサービス」
「うわっ、花びらが一杯! すごいすごい、先にむしっておいてくれたんだ! ありがとうヨミお姉ちゃん」
 礼儀正しい大河くん、散り散りになってたのをかき集めた花びらの袋を受け取って破願する。う〜ん、なんか売り物に
ならないのを押し付けてるみたいで気が引けるんだけど……大河くんはこういうのを喜ぶ子なんだよね。
「これはこれは、お花屋さんの京橋さん。いつもご苦労様です」
「あ、氷室さん……い、いえ、別にそんなこと……」
 続いて現れたのは背の高いイケメン執事、冴木氷室さん。優雅な身のこなしでお辞儀をする氷室さんの隣で、大河くんは
受け取ったばかりの花びらをさっそく宙へと撒いている。こうやって少女漫画みたいに氷室さんの背後を花びらで
飾り立ててるのが、大河くんの趣味らしいんだ。これも最初に聞いたときは驚いたんだけど。
「いや、あなたのように若くて美しい方がお1人で懸命に働いてらっしゃるなんて、私も見習わなくちゃなりません」
「あ、いえ、そんなこと……」
「せっかくですからお茶でもどうぞ。大河坊ちゃん、用意をしてくれませんか」
「はぁ〜い!」
 氷室さんの指示を受けて、楽しそうにお屋敷へと駆けていく大河くん。こういう光景を見てるとどっちが主人で
どっちが執事か分からなくなるんだけど、さすがにもう慣れちゃった。どうやら大河くん自身がこういう生活を望んでて、
氷室さんはそんな大河くんの望みをかなえるのが仕事なんだって。


 それから白いテラスに案内されて、氷室さんと向かい合わせでコーヒーを飲ませてもらう。もちろんコーヒーを煎るのも
給仕するのも大河くんの役目。せっせと動き回って楽しそうに働いている大河くんの姿は、本当によく似合っていて微笑ましい。
本来の立場にさえ目をつぶってしまえば、なんだけど。
「京橋さんはゴールデンウイークに、どこかに行かれるんですか?」
「あ、いえ、別に……」
 二枚目の氷室さんに面と向かって問いかけられると、知らず知らずに頬が熱くなる。これはひょっとして誘われてるのかな、
なんて思ったりしちゃう。もっと気の聞いた返事をすればよかったかな、と口に出してから後悔なんかしていると、
「そうですか。京橋さんはこの街のアイドルさんですからね、あなたの笑顔に元気付けられてる人たちもきっと多いでしょう」
「は、はぁ……」
 私の淡い期待をばっさりと切り捨てると、氷室さんは意外なことを言い出した。
「そうだ、明日でいいですから、とあるお屋敷にお花を届けてくれませんか?」
「ご注文ですか? ありがとうございます……それで、どちらへ?」
 氷室さんがお花を届けたい相手って、ひょっとして恋人さん?……なんて余計な想像をしていると、
「なぁに、不甲斐ない後輩あてですよ。頼もしい執事に逃げられて、友人を作る気概も女の子に声をかける勇気もなく塞ぎ
こんでるクズ男です……別に元気付けてやる義理もないんですが、僕くらいしか構ってやる奴もいないでしょうからね」
「は、はぁ……」
 うぅ、二枚目の男の人が辛辣な言葉を吐くのがこんなに怖いなんてっ! 胸に針金を刺されたような悪寒を感じながら、
私は“東宮”というお屋敷の住所と電話番号を書いたメモを受け取ったのだった。


 氷室さんの家……じゃない、大河くんの家からの帰り道。私はとぼとぼと自転車を走らせていた。
 ちょっと憧れてた氷室さんのブラックな一面を見て、なんだか怖くなってきた私。あれだけ完璧な氷室さんともなると、
お友達や恋人を見る眼も厳しいんだなぁって。ひょっとしたら私のことも、カボチャかタンポポくらいにしか見えてない
のかもしれない。物腰が優しかっただけに底が見えない人なんだもの。
 物凄く格好いい人だけど、恋人として隣に並ぶのは釣り合わないというか、なんか気が引けちゃうな。どうせだったら
もっと気楽に付き合えて、肩肘張らずにお喋りできる、そんな男の人のほうがいいのかなぁ……そう、例えばハヤテさんみたいな……。
 ……って、えっ、えぇっ!! なんでハヤテさんの顔なんかが浮かんでくるわけ?
 よろけて転びそうになった私はあわてて自転車のブレーキを握ると、立ち止まってそっと手を頬に当てた。春の日差しが沈んで
冷気が差し始めた4月の夕暮れの中、私のほっぺたは燃えるように熱くなっていた。


 こんな気分でお店になんて帰れない。お客さん周りも終わったことだし、気晴らしにショッピングにでも行こう。
 携帯でお店に連絡を入れた私は、その足で伊勢丹へと向かった。そしてあちこちをブラブラと眺め歩いて、
ふと下着売り場へと入ったとき。
《ええっ、ハ、ハヤテさんが何でここへ?》
 なんという偶然だろう。女性用の下着を手にしてるハヤテさんと私は、ぴたっと目を合わせてしまった。目をまん丸に
見開いたハヤテさんの手が震えてる。見られたハヤテさんもショックだろうけど私もショックだった。さっき意識した
ばかりのハヤテさんと、よりによってこんなとこで顔を合わせるなんて!
「ご、ごめんなさいっ!」
 この言葉を口にしたのはどっちだっただろう。私は顔を伏せて一目散にその場を逃げ出したのだった。


 その後。そっと物陰から覗き込んでみると、ハヤテさんは1人でお店に来てた訳じゃなかった。大河くんくらいの
小さな女の子がそばにいて、あれこれとハヤテさんに指示を送ってる。まだ顔を合わせたことはなかったけど、
ひょっとしたらあの子が、ハヤテさんの勤める三千院家のお嬢さまなのかも知れない。
《執事さんって……あんなことも、するんだぁ……》
 変態さんかと誤解しかけたハヤテさんが女の子の命令に従ってるだけとわかって、私はちょっとだけほっとした。
そっかぁ、あの子に連れられてハヤテさん、ランジェリーショップまで連れてこられたのね。なんか気の毒だなぁ、
男の人なのに小さな女の子のわがままに付き合わされて。
 ……と、そう考えた所で私の頭に雷光がひらめいた。
《そっか、小さい女の子だったら友達になれるかも!》
 鷺ノ宮家で出会った子、愛沢家の夕華ちゃんたち、そして大河くんの顔が走馬灯みたいに浮かんできた。あの金髪の
女の子も似たような年代みたいだもんね、よぉし頑張ってお友達になろう! 将を射んとすれば馬からって言うじゃない、
そうすればハヤテさんとだってもっと仲良くなれるかも知れないし!


 こうして私は浮かれ気分で伊勢丹を後にしたのだった。ハヤテさんの連れてた子が私と1歳しか違わない現役高校生で、
自己紹介したときに刺し殺されそうな視線を向けられることになるなんて、このときの私は想像もしていなかった。


Fin.

タイトル新春スペシャル企画・批評チャット会ログ
記事No132
投稿日: 2009/01/13(Tue) 23:39
投稿者双剣士
参照先http://soukensi.net/ss/
 1月13日に開催された、新春スペシャル企画のチャットログを公開します。
 今回は普通少女対決。冬の炬燵ネタという豪快な吸引力を武器にした黒獅子さんの
作品に対し、マイナーキャラの集団戦を仕掛けた双剣士と思惑が分かれました。
 今回は予告期間が長かったにもかかわらず、参加者が2人きりだったのが
残念です。みんな都合が悪かったんでしょうか?

http://soukensi.net/odai/chat/chatsp03.htm